バルト諸国旅行記(3日目)

(1999.7.5) ~ Tallinn

寝ているときに何やら車内放送があったような気がするが、よく憶えていない。気がつくと列車は停まっていて、しばらくすると車掌と一緒に出国審査官がやってきた。最初、審査官にロシア語で何か言われたが、車掌が審査官に何か言ってからは、すべて英語になった。(「この人はロシア語ができない」と伝えてくれたのだろう)

出国審査はなかなか細かく、手荷物をかなり厳重に調べた後、パスポートとヴィザを持って出ていった(ガイドブックに挟んでいたルーブル紙幣が見つからないかと冷や冷やした)。しばらくしてから審査官がパスポートを返しに来たが、ヴィザは回収されるらしく、戻ってはこなかった。

やがて列車が動き始めたので、しばらく横になってうとうととしていたが、気がつくと再び列車は停まっていた。時刻は2時ごろで、まだ空には薄明が残っている。外に見える駅舎に「NARVA」とあるので、すでにエストニア領に入り、国境の町ナルヴァに停車しているようである。これからエストニア入国審査が始まる。

やがてドアをノックする音が聞こえたので、ドアを開けると犬が入ってきた。明らかに麻薬捜査犬で、勿論そんなものは持っていなかったので、部屋を一回りするとすぐに出ていった。続いて入国審査官がやってきたが、今度は30歳代くらいの女性。特に手荷物検査はなく、パスポートをチェックしただけで “Welcome to Estonia” と言って出て行った。しばらくすると列車が動き出したので、ようやく安心して寝ることができた。

目が醒めると、すでに外は明るくなっていたが、列車は停まっていた。引込み線に停車しているらしく、駅はどこにも見えない。何があったのかわからないが、列車はそのままかなりの時間停車し続け、8時近くになってようやく動き出した。予定では6時半頃にタリン着なので、かなり遅れていることになる。結局、約2時間遅れの8時半頃、タリン駅に到着。

タリン駅に着いた夜行列車

駅構内にあるインフォメーションがちょうど開いたところだったので、タリンの地図を買い、ラトビア大使館の場所を教えてもらった。タリン旧市街は駅の南側にあり、そのさらに南側にラトビア大使館があるので、大使館へは、旧市街を通り抜けるか、旧市街を迂回する大通りに沿って行くことになる。事前に得た情報では、大使館がヴィザ申請を受け付けるのは午前10時から12時までの2時間だけ。10時まではまだ時間があるので、まず旧市街へ行ってみることにした。

駅を離れると、すぐに石畳の細い路地が入り組んだ旧市街が始まり、歩いているうちに方角がわからなくなる。まだ朝早いので、観光客はまばらにしか歩いていない。旧市街の石畳は、タリンがハンザ同盟で栄えていたころのままだそうで、すでに500年以上経っている。

タリン旧市街

旧市街の中心にある広場に面してインフォメーションがあったので、ここで英文の情報誌「Tallinn In Your Pocket」と、さらに「Riga In Your Pocket」もあったので購入。これで今日泊まるホテルを探すことにした。

やがて10時近くになり、ラトビア大使館へ行くことにしたが、旧市街を通り抜けようとすると道に迷いそうなので、いったん駅へ戻り旧市街を迂回して行くことにした。大使館へは駅前の大通りに沿って行けばよく、駅前から何路線か出ているトロリーバスに適当に乗ってみたが、途中で大通りから外れてしまったので、そこで降りて歩くことにした。なお、タリンではキオスクなどでトラム(路面電車)、バス、トロリーバスの市内交通共通のチケットを売っていて、料金は一律5クローン(約50円)。車掌はおらず、乗りこむときに自分でパンチ機を使ってチケットに穴を開けることになる。しかし、見ていると乗客のほとんどはそういう作業をしていない。初めは「無賃乗車をしまくっているのか?」と思ったが、どうやら定期券を持っている人がほとんどのようで、それにまぎれて無賃乗車が簡単にできてしまうように思える。「地球に歩き方」には、かなり頻繁に抜き打ち検査があり、無賃乗車が見つかると多額の罰金を取られるとあるが、私は(かなり何度もトラムに乗ったのだが)一度も検査を見ることはなかった。

ラトビア大使館は旧市街のすぐ南側にあり、すぐに見つかった。中に入ると、ヴィザ申請の窓口があり、そばで若い兵士が警備していた。窓口で用紙をもらい、必要事項を記入。国籍、住所、氏名、入国日、出国後向かう国などの他、かなり多くの項目があったが、掲示板に記入例(英語、ロシア語、ドイツ語など多数)が貼ってあったので、全部埋めることができた。(「滞在中の経済的負担を誰がするのか」という項目もあった。ここは “Myself” と記入)

窓口で用紙とパスポート、写真1枚、即日発行料60ドルを渡し、ヴィザ申請は無事に終了。ヴィザができるのは今日の午後4時ということだったので、その時間に受け取りに来ることにして、大使館を出た。

再び旧市街へ戻ったが、この時間になると観光客も多くなり、日本人もちらほらと見かける。フィンランドに近いので、おそらく北欧旅行の途中にエストニアに立ち寄った人たちだと思う。次のラトビアでは、日本人を見かけることは少なくなるはず(何しろ、日本でヴィザが取得できない国である)。(注:2000年4月から、60日以内の商用、観光についてはヴィザが不要になったため、このとき取得したラトビアのヴィザは貴重な記念品になった)

下の写真は、旧市街の外れにある展望所と、その近くにあった雰囲気のいい路地。

タリン旧市街からの眺め(遠くにバルト海が見える)
タリン旧市街の路地

次は、今日泊まるホテルを決めないといけない。”Tallinn In Your Pocket” にはグレード別に数十のホテルが載っているが、旧市街に近いところか、またはトラムの駅から近いところがいい。最初、旧市街の中にある “Olematu Ruutel”という小さなホテルに行ってみたが満室。旧市街にある他のホテルはどれも高そうだったので、次にトラムの終点駅から 200m の距離にあるというホテル “SUSI” に電話してみたところ、空きがあったのでここに決めた。なお、”SUSI” がエストニア語でどういう意味かは知らない。

明日はバスでリガへ行く予定なので、バスセンターの場所を調べてチケットを買わないといけない。インフォメーションで聞いたところ、バスセンターは旧市街からやや離れているようなので、ホテルへ向かう途中に立ち寄ることにした。

旧市街の中はあちこちにパラソルが立っていて、みんな昼間からビールを飲んでいる。それに混じってエストニアのビール “SAKU” を飲んだり、やや大げさに言えば迷路のような旧市街を歩き回っているうちに昼過ぎになったので、荷物を置きにいったんホテルまで行くことにした。

駅の近くから2番線のトラムに乗車。旧市街の東側を通り、やがて旧市街を離れて南へ向かいだした。バスセンターで降りようかとも思ったが、荷物を先に置くことにして終点へ。終点までの所要時間は30分弱。

タリンのトラム(路面電車)
トラム内部

トラムを降りると、すぐ先にホテル “SUSI” があった。チェックインしてしばらく休憩。部屋はツインのシングル使用で、わりと広い。

1時間ほど休んでから、再びトラムで旧市街へ。今度は駅まで行かずに途中で降りて旧市街に入り、夕方まで歩き回った。主に見たのはトーンペア城、大聖堂など。

途中、4時頃にヴィザを受け取りにラトビア大使館へ。入り口のドアは閉まっていて、インターフォンでヴィザのことを言うと、最初は「明日来なさい」と言われた。「4時頃受け取りに来るように言われた」と主張すると、「ああ、エクスプレスヴィザか」と言って中に入れてくれた。ヴィザはロシアと違ってパスポートに貼り付けるタイプで、出国後も手許に残るのが嬉しい。

6時頃になって、ホテル「ヴィル」の近くから4番線のトラムに乗ってホテル方面へ向かう。途中で降りてバスセンターへ行き、ユーロラインのカウンターで翌日10時発のリガ行きのチケットを買おうとしたが、”No space” と言われてしまった。他の便も聞いてみたが、どうやら翌日のリガ行きの3便だけでなく、翌々日もすべて満席らしい。これは困った。

大体、前日の夕方にチケットを買おうと考えるのがいけないのだが、今更後悔しても仕方がないので、バスは諦めて鉄道を調べてみることにした。ただ、「地球の歩き方」にはタリン~リガ間は夜行列車の「バルティ・エクスプレス」のみが運行されているとあり、リガ到着は早朝5時半頃。あんまり早起きはしたくないが、仕方がない。明日の夜行でリガへ向かうことにして、チケットを買いにタリン駅へ行くことにした。

再びトラムに乗って駅へ戻り、インフォメーションでリガへの行き方を訊ねてみた。すると、途中国境のヴァルガ駅で乗り換えることで、昼間の便でもリガへ行けるようである。ほとんど半日かかってしまうが、列車で車窓を眺めながら移動するのも良さそうに思えたので、この方法でリガへ行くことにした。(なお、1999年7月時点でバルティ・エクスプレスは運行されていないようであった)

チケットは、タリンからヴァルガまでの分が購入できた。ヴァルガから先は列車の中で車掌から買うようにとのことだったが、ラトビアなのでエストニアクローンは使えず、ラトビアの通貨ラットを用意しなければならない。

ヴァルガ駅で両替できるかどうかわからなかったので、今日のうちにラットを入手しておこうと思ったのだが、すでに時刻は8時を過ぎていて、銀行はどこも閉まっている。開いている銀行をしばらく探し回ったが、大きなホテルなら両替所があるということに気付き、一番高級そうなホテル「ヴィル」内でラットを入手することができた。

これでラトビア行きの準備ができたので、安心してホテルへ。フロントで朝食の時間を聞いてみると、7時からだという。タリン駅発が7時半なので、7時からでは間に合わない。そのことを伝えると、特別に6時半に用意してくれるということになった。

その後、ホテル内のレストランで夕食。食べ物は安い国なので、かなり豪華な食事を取ることができた。食事代は、日本円では1,300円ほど。部屋に帰り、明日は朝が早いのでシャワーを浴びて寝ることにした。