バルト諸国旅行記(5日目)

(1999.7.7) Sigulda ~ Riga

朝6時頃に目が醒めると、青空が見えた。天窓を開けて外を見てみると、昨日とは一転していい天気である。私は旅行中(特に外を歩いているとき)に雨にあうことが極めてまれで、この点については自分を運の強い人間だと思っているのだが、ここでもその運が発揮されたようだ(昨日も、外出して外を歩いているときは雨は降らず、ホテルに帰ってから降り出した)。嬉しいことに水道の方も復旧していて、シャワーを浴びることができた。

7時に朝食をとり、8時頃ホテルをチェックアウト。フロントでスィグルダのガイドブックを買い、夕方まで荷物を預かってくれないかと頼んでみたところ、快く引き受けてくれたので、身軽になって歩くことができた。

今日は、スィグルダの近くにあるガウヤ国立公園を散策することにしていた。スィグルダの町中では、街路樹の枝が折れて至る所で道路をふさいでおり、あちこちで道路の復旧作業が行われていた。(どうやら、夜寝ている間もかなり天気が荒れていたらしい)

やがて道路はスィグルダの町を離れ、そこからは深い緑の中を歩くことになった。車はときどき通るが、歩いている人は誰もいない。ガウヤ川を渡ったあたりから、道路の横を並行して通る遊歩道が現れたので、そちらを歩くことにした。ここからは、深い森を背景に、小さな湖や白樺の木立などが見え、とてもいい雰囲気である。ときどき、遠くにトゥライダ城が見え隠れする。

遊歩道からの眺め
遊歩道からの眺め

やがて遊歩道の終点に到着し、そこからは車道を歩くことになった。緩やかな上り勾配の道をずっと歩いていくと、やがて駐車場、レストハウス等が現れた。ここからトゥライダ城や彫刻広場などへ行くためには、0.5ラット(約100円)を払ってゲートを通らないといけない。この入場料は、国立公園の管理やトゥライダ城の修復費用に使われるものと思われる。

ゲートの中に入ると、まだ時間が早いせいか、公園内にはほとんど人がいない。奇妙な彫刻が並んでいる「歌の丘」を通り、まずはトゥライダ城へ向かった。

トゥライダ城(13世紀建設)は現在修復作業が続いていて、私が行ったときも十数人の若い男女がレンガを運んだりして働いていた。修復が進んでいる本丸と塔は、中に入れるようになっている。本丸の内部は博物館になっていて、昔の暮らしを再現した光景(人形)が展示されている。最上階は城の歴史が展示されていたように思う(この辺の記憶は曖昧)。

本丸の隣りにある塔は、展望所になっている。2階にある土産物店を過ぎ、狭いらせん階段を上っていくと、やがて最上階に着いたが、まだ人は誰もいない。ここからは、トゥライダ城の本丸や歌の丘、濃い森に覆われた周囲の山々が一望できる。

トゥライダ城

最上階にはベンチがあるので、景色を見ながらしばらく休憩。周囲の緑の濃さがすごい。かつてはヨーロッパ中がこうだったのだろうが。

下を見ると、城の復旧作業が続いているのが見える。どこまで復旧する予定なのかは知らないが、完成まではまだまだ時間がかかるようである。

30分ほど休憩した後、トゥライダ城を後にして、しばらく公園内の歌の丘、トゥライダ・ルアザの墓などをぶらぶらと歩き回った。(トゥライダ・ルアザの墓については、各ガイドブックに解説されているので、ここでは説明は省略)

やがて昼時になったので、ゲートを出てレストランへ行くことにした。この時間になると、駐車場には数台のバスが停まっていて、さすがに観光客の数も多くなっている。レストランと同じ建物内にはカフェもあったが、食費は安い国なので、レストランで食事をすることにした。

セルフサービスだったので、皿一杯のチキンカツとサラダ、コップ1杯のケフィールを選んだのだが、これで合計270円ほど。さすがに安い。

ちなみに、ラトビアのレストランでは、料理を出されるときに「どうぞ」と言われる。最初に聞いたときは「なぜ日本語?」と思ったが、どうやらラトビア語では「ドウゾ」が “Please” という意味らしい。発音が日本語の「どうぞ」とほとんど同じなので、この国を旅行しているときは食事のたびになんだか嬉しい気持ちになる。

レストランを出ると、時刻は1時近くになっている。4時頃の列車に乗らないといけないので、町の方へゆっくりと戻ることにした。来たときとは別の遊歩道を歩いていくと、途中にガイドブックにも載っているグートゥマニャの洞窟があった。さして奥行きはないが、壁一面に書き込みがしてある。中には16世紀に書かれたものもあるという。

洞窟を後にしてしばらく歩くと、やがて道が二手に分かれているところがあり、右の道はクリムルダ城およびロープウェイ乗り場へ、左の道はそのままスィグルダの町へ戻るようである。ここでは、クリムルダ城を見てからロープウェイでスィグルダへ帰ることにして右側の道に入ったのだが、道はすぐに急な登り階段になった。この階段が急な上に長く、上に着いたときにはすっかり汗だくになっていた。そこから少し歩くと、クリムルダ城の廃墟が現れた。

クリムルダ城の廃墟

この城も13世紀に建てられたものだが、トゥライダ城のように修復はされておらず、今では壁の一部しか残っていない。しばらく付近を歩き回ったが、このような朽ち果てるままの廃墟も、なかなか雰囲気が良くて好きだ。

クリムルダ城を後にして、再び森の中を歩いていくと、やがて小さな集落があり、その近くにロープウェイの乗り場があった。こちらもなんだか廃墟のような感じで、現在でもロープウェイが運行されているということを知っていなければ、おそらく「乗り場跡」だと思っただろう。そこでしばらく休んでいると、人は何人か集まってきたのだが、ロープウェイはなかなか来ない。結局、30分ほど経ってからワイヤーが動き出し、向こうからゴンドラがやってくるのが見えた。

ゴンドラが到着すると中から5~6人の客が降りてきて、入れ替わりに乗り込むとすぐに動き出した。年配の女性が乗っていて、この人に料金を払うようになっている。ロープウェイ自体はそんなに高いところを通るわけではないので、それほどスリルは感じないが、トゥライダ城がやけに遠くに見えるので、ずいぶん歩いたような気になる。

また、ホテルで買ったガイドブックによると、毎週土曜日と日曜日にはこのゴンドラからバンジージャンプができるようで、その写真が載っている。興味はあるのだが、曜日が合わないので仕方がない。

やがてスィグルダの町のはずれに着いたが、まだ列車の時刻までは時間がある。そこで、地図に載っているもうひとつの廃墟、スィグルダ城へ行ってみることにした。

スィグルダ城(こちらも13世紀建設)は、クリムルダ城よりはましだが、それでもかなり廃墟になっている。修復作業が行われていたが、まだそれほど効果は上がっていないようだった。

スィグルダ城の廃墟

この城は、町に近いこともあって、わりと人は多かった。城の中には、何やらステージのようなものが作られつつあったので、いずれは野外ホールになるのかもしれない。

その後、いったんホテルに戻って荷物を受け取り、スィグルダ駅へ。昨日乗ってきたのと同じ便で、ラトビアの首都リガへ向かった。

最初は車内はすいていたが、リガに近づくにつれて乗客が多くなってきた。ラッシュ時になってきたらしく、行き会う列車はどれも満員。こちらは逆方向なので、まだ少ない方のようである。スィグルダから約1時間で、リガ駅に到着。

列車を降りると、ちょうど反対側のホームからモスクワ行きの夜行列車が発車するところで、ホームを歩いているとあちこちで別れの光景が繰り広げられているのが見える。駅の建物もタリン駅よりはるかに大きく、また駅前には高いビルが建ち並んでいる。さすがにバルト3国で一番大きな都市だ。

さて、とりあえず泊まるところを探さないといけない。タリンで買った「Riga In Your Pocket」を見ると、駅周辺に安いホテルが何軒かあるようだが、そんなに節約する必要もないので、駅近くの中級ホテル「Viktorija Hotel」に行ってみた。直接フロントに行って泊まれないか聞いてみたところ、今日と明日は空きがあったので、ここに2泊することにした(料金は1泊32ラット)。明後日は朝が早いので、空港近くのホテルにするつもりである。

部屋の窓からは、駅前の大通りが見える。少し部屋で休んでから、まだ明るいので出かけることにした。

来た道を戻り、駅前を通り過ぎると、やがてリガ旧市街が見えてくる。旧市街の中は、タリンと同じように教会や聖堂などの古い建物や古い石畳の路地という光景が続いている。ただし、ここの旧市街はタリンほど大きくはなく、歩いているうちに方角がわからなくなるようなことはない。

明後日はほぼ1日中リガ市内を歩き回る予定なので、今日は特に目的を決めずにぶらぶらと歩き回った。旧市街には大きなデパートやCDショップもあったので、土産物は明後日ここでまとめて買うことにする。2時間ほど歩いてからホテルへ戻り、少しテレビを見てからシャワーを浴びて就寝。