ペルー旅行記(クスコ~マチュピチュ)

朝5時ごろ起床。いよいよマチュピチュへ向けて出発する日になった。一晩休んだためか、幸いにも体調はかなり回復していた。これならクスコを離れるまで苦しい思いをしなくてすみそう。

マチュピチュには「天空都市」というイメージがあるためかクスコよりさらに高地にあると思っている人が多いようだが、マチュピチュの標高は 2,400m ほど。クスコより 1,000m ほど下がったところにある。「クスコで高山病になったらマチュピチュへ行け」と言われているくらいで、実際にマチュピチュに着くと高山病は完全に治ってしまった。


まだ薄暗い中、ホテル前から送迎の車に乗りサンペドロ駅へ向かう。5時半過ぎにサンペドロ駅に到着し、マチュピチュのふもとアグアスカリエンテス行きの観光列車「ビスタドーム」に乗り込んだ。全席指定で、私が乗ったのは先頭の車両。乗客はほぼ全員が外国人だが、この車両には日本人ツアー客が乗っているらしく、半数近くが日本人だった。この列車は車両間に通路はなく、各車両が独立しているため走行中に行き来することはできない。

ビスタドームというだけあって座席の上部にも窓が設置されており、車内はかなり明るく開放感がある。しかしながら、この列車には暖房がないらしく、とにかく寒い。隣席の人(日本人旅行者)と「寒いですねえ」などと話しながら出発を待ち、午前6時、ようやくゆっくりと動き出した。終点のアグアスカリエンテスまで3時間40分の列車の旅になる。

出発してしばらくはスイッチバックを繰り返しながらゆっくりと山を上っていく。このときクスコ盆地を見下ろすことができる。

出発してから約1時間、クスコ郊外にあるポロイ駅を過ぎたあたりで軽食のサービスがあった。内容はサンドイッチ、ケーキと飲み物(ここでは紅茶を選択)。せっかくなので写真を撮っておいた。

ポロイ駅を過ぎると下り勾配が続くようになり、列車は快調に飛ばすようになった。日差しが差し込むため車内もかなり暖かくなり、まさに快適そのもの。久しぶりに、かなり優雅な時間を楽しむことができた。

途中いくつかの町で停車したものの、町を離れるとほとんど人の気配がしない山岳地帯が続く。

下の写真は車窓風景。谷底を流れる川に沿って走ることが多く、両側には切り立った岩山がそびえている。天井の窓のおかげで、頭上の景色も眺めることができるのは嬉しい。

標高が下がるにつれて次第に樹木も多く見られるようになり、午前9時40分、終点のアグアスカリエンテス駅に到着。なかなか快適な列車の旅だった。鉄道ファンなら一度は乗ってみてほしい列車といえる。下の写真は降りるときに撮った車内風景と先頭の車両。

この駅の敷地内には鉄道利用者しか入ることができないようになっていて、入り口の柵の前にホテルのスタッフや土産物売りが大勢待機している。駅の外に出る前に駅舎の写真を撮っておいた。わりと立派な造りになっている。

大勢の旅行者に混じり、土産物売りたちが待ち構える駅の外に出た。


外に出ると土産物売りたちが寄ってくるが、まずはホテルのスタッフを探す。今回泊まるのは “Adela’s” というホテルで、すぐにホテル名が書かれたボードを持った女性が見つかった。ホテルを経営しているミセスで、同じホテルに泊まるもう1人の客(こちらも日本人)と一緒に、すぐ近くにあるホテルへ移動した。かなりこじんまりとしたホテルだが、部屋はかなりきれい。宿泊料金は1泊15ドル(だったと思う)。

ホテルは川沿いに建っていて、部屋の窓からはウルバンバ川が見える。きれいな眺めだが、この川はあのアマゾン川の最上流部になる。つまり、この水ははるか6千キロ離れた大西洋まで流れていくことになるわけで、長い旅路を想像しながら眺めていた。

部屋でしばらく休憩した後、マチュピチュへ行くことにした。ミセスにマチュピチュのチケットと往復のバスチケットをもらい、バス乗り場方面へ。

ホテルの前の道には線路が敷かれているが(上のホテル外観の写真でも、ホテルの前に線路が敷かれているのが分かると思う)、最初はもう使われていない線路なのだろうと思っていた。ところが、ホテルを出て歩いているとなんと列車がやってきた。

下の写真がホテル前の道を通過する列車。

客は乗っていなかったので、どうやら営業路線ではなく引込み線のような感じだったが、しかしこんな細い道を列車が通るという光景を見たのは初めて。

バス乗り場は駅の近くにあり、小型バスが20分間隔程度で観光客をピストン輸送している。村の中心部を離れると、しばらくはウルバンバ川に沿って走り、マチュピチュへと上る「ハイラムビンガムロード」に入る。1911年にマチュピチュを発見した考古学者ハイラム・ビンガムの名前が付けられた、10回以上もつづら折れを繰り返す細い道を上り、村から約30分で遺跡の入り口に到着した。村の標高は 2,000m ほどなので、約 400m を上ってきたことになる。


では、いよいよマチュピチュに入る。ゲートでチケットを見せ、はるか眼下にウルバンバ川を眺めながら急な坂をしばらく上ると、やがてTV等で何度も見たことのある景色が見えてくる。

マチュピチュだ!!!

いやー、本当に来てしまった。麓からは見ることができない尾根の上に空中都市が広がっている。この景色を見るために地球の反対側までやってきたわけだが、これは想像以上にすごい。まさしく絶景!

このような「TVや写真で何度も見たことのある景色」でも、実際に目の前に広がっているのを見ると本当に感動する。30分ほど、この景色を眺めながら休憩することにした。

この遺跡がこれだけ人気があるのは、遺跡自体の価値ももちろんだが「景色の素晴らしさ」「写真写りの良さ」もあるのかもしれない。眺めていると時間を忘れるほどの眺めだと思う。

ここは、1911年に再発見されるまで約400年も忘れられていた、スペイン軍によって破壊されていないインカ帝国の遺跡。それにしても、いったいなぜこのような場所に都市を作ったのだろうか。建造年代や建造目的もはっきりとは分かっていないらしいが、尾根の上にこれだけの都市を作り上げるのは相当に困難な作業だっただろうということは想像できる。

マチュピチュは大きく分けて段々畑エリアと市街地エリアから成っている。まずは遺跡入口近くに広がる段々畑エリアを歩いてみた。インカ帝国時代の数千人の生活のために、斜面は徹底して段々畑として使用されている。

段々畑なので当然ながらアップダウンが多く、歩いているとちょっと疲れる。しかし最上部にある小屋付近からは遺跡全体を一望できる。

下の写真は段々畑の風景。

よくこれだけたくさんの畑を作ったものだ。段々畑を作る技術に関しては、極めて高度といっていいだろう。もっとも、数千人が生活するためには高度な技術を持たざるを得なかったということもいえる。

段々畑の先は谷底まで急斜面になっている。そのため遺跡の端まで行くと目の前には下のような景色が広がる。

遺跡の周囲は、どの方角を見てもこのような深い峡谷ばかりが続いていて、まさしく秘境という感じ。遺跡の端には特に柵も作られていないが、人が落ちたりはしないのだろうか。

遺跡内にはリャマが何頭も放牧されていて、遺跡をバックに写真を撮ることができた(下の4枚のうち、黒いリャマがマチュピチュを見下ろしている写真は自分でもかなりお気に入りの1枚)。「おとなしく人に慣れやすい」という性格の通り、人間が近寄ってもまるで気にしない様子だった。リャマをこんなに近くで見たのは初めて。

段々畑エリアを過ぎ、続いて市街地エリアへ。市街地エリアの周囲も、わずかなスペースにはすべて段々畑が作られている。

市街地エリアに入ってすぐに見えるのが「石切り場」。たしかに大きな石が散在しているが、この遺跡を作り上げるためにはこの付近の石だけで足りるとは到底思えない。これだけの石をいったいどうやって運んできたのだろう。

市街地エリアには、太陽の神殿、王女の宮殿、インティタワナ(日時計)、コンドルの神殿、聖なる岩、居住区などの建造物が点在している。それぞれの写真は、翌日の午前中に登頂したワイナピチュ山頂からの眺めとともに2日目のページで紹介することにして、市街地エリアの主な風景だけ下に載せておく。

市街地には遠くの山から引かれた水が今でも流れていて、ところどころに水汲み場が作られている。石に溝を刻んで作った水路があったり、石のトンネルがあったり、造形は本当に見事なもの。

昼食時以外、遺跡内を何周もするほど歩き回ったが、本当に時間が経つのを忘れるほど。(遺跡内に食べ物を持ち込むことは禁止されている。入口横のファーストフード店でハンバーガーを食べたが、さすがに値段はちょっと高い)

遺跡内を歩いていると、なんとも不思議な気持ちになってくる。本当に、これだけの都市をどうやって作り上げたのだろうか。大量の石材を運び上げるだけでも大変な重労働だったはずだが。

インカの時代には文字がないため、記録は残っていない。我々は遺跡を歩きながら想像するしかない。

日数の短いツアーでは日帰りでクスコへ戻ることも多いようだが、日帰りでは遺跡にいられるのは最大5時間ほどしかない。せっかくここまで来て、たった5時間ではあまりにももったいない。やはりここは最低でも1泊するべきだろう。

夕方、名残惜しかったが遺跡を離れることにした。翌日は午前中に遺跡の向こうに見えるワイナピチュ山に登り、その後は夕方まで再び遺跡内を散策することにしている。


マチュピチュからバスでアグアスカリエンテス村へ戻り、夜まで村を散策してみた。歩いているとすぐに一周できるほどの小さな村。

アグアスカリエンテス “Aguas Calientes” とはスペイン語で「温泉」と言う意味で、村のはずれに温泉がある。当初は入る予定はなかったのだが、近くに水着とバスタオルをレンタルする店がいくつもあったため、せっかくなので入ってみることにした。

温泉といっても日本の露天風呂とは違い、水着着用で入る温水プールのようなもの。水着を着ているので混浴になる。

料金の10ソルを払って中に入り、更衣室で着替えてから荷物を受付に預け(この預かり料は1ソル)、プールに入ってみた。

この温泉に浸かった感想だが、正直言ってかなりぬるい。プールがいくつかあったため一応全部のプールに入ってみたが、浸かっているときはまだいいものの上がって移動しているときが寒くて仕方がない。旅行者だけでなく地元の人たちも多く利用しているような感じだったが、よくみんな風邪を引かないものだ。

ただ、ここにはビキニ姿の若い女性も多く入っていて、あまり男性を気にしないらしく体が当たるくらいまで近寄ってきたりするので、それはそれで良かった。さすが南米、みんな大らかなもの。

この後、温泉を出てレストランでアルパカ肉の夕食を取ってからホテルへ帰った。