国内旅行編(佐賀 / 鶴の岩屋)

2006年11月の文化の日。どうも祝日はやることがなく暇なので、以前から興味のあった「鶴の岩屋」という寺へ行ってみることにした。一般にはまったく知られていない寺だと思うが、B級スポット好きの間では「ものすごく濃い空間がある場所」としてちょっと有名と言っていいだろう。場所は佐賀県北部の海沿いにある「唐津市肥前町」で、正直言ってかなりの僻地にある。


佐世保から車で伊万里方面へ。伊万里市内を通り抜けて国道204号線を北上して肥前町方面へ向かう。かなり以前、仕事でこの町を訪れたときは「東松浦郡肥前町」だったが、2005年に唐津市と合併している。

伊万里から1時間近くかかって、ようやく肥前町の中心部になる旧町役場近くに到着した。スーパーの駐車場に車を停めてしばらく休んだ後、鶴の岩屋を探すことにした。

事前に肥前町のサイトで大まかな位置は調べていたが、付近の正確な地図はわからなかったため、こうやって現地で探すことになった。カーナビのような便利なものは残念ながら持っていないので、30分ほど試行錯誤を繰り返しながら(細い道を進んでいったら風力発電のプロペラが林立している一帯で行き止まりになってしまったりしたが)なんとか道路沿いに「鶴の岩屋」の表示を見つけることができた。ここで表示の通りに細い横道に入り、とんでもなく急な坂を上ったところに目的地があった。(一番上まで車で行くのは無理だったため、途中に停めてそこから歩いて上らないといけなかった)

下の写真が鶴の岩屋の外観で、一般の民家という感じ。

無人の寺らしく、周囲にはまったく人の気配がしない。「ご自由にお入りください」と書かれていたので、靴を脱いで中に入り、まずは仏壇のロウソクに火を点けて線香を供えてみた。

仏壇の奥に、小さな洞窟が見える。全国の珍しいスポット好きの間で、この僻地にある小さな寺が有名になっているのは、この洞窟のため。

自分でスイッチを入れて明かりを点け、置いてあったスリッパを履いて中に入ると、内部には実に異様な空間が広がっていた。

いや、なんとも。これはすごい。壁一面、天井辺りまで赤や白に彩色された仏像のレリーフがびっしりと刻まれている。洞内はそれほど広くはなく、奥行きは数メートルといったところだが、予想以上に不気味な光景に圧倒されてしまった。

これらは今から約500年前に一人の修行僧が彫ったと伝えられているそうだが、詳しいことはまったくわかっていないらしい。

さすがに長い年月のため一部が剥がれかけてはいるものの、実際に見てみると写真よりかなり迫力がある。以下の写真はフラッシュを使用しているため明るく写っているが、実際はもっと暗い。

肥前町のサイトには「天然の洞窟内の石壁に仁王尊像、地蔵菩薩像、大日如来像、さらには四国八十八ヶ所・西国三十三ヶ所の尊像120体が彫られています」と記載されている。

洞内に立つと、周囲の仏像からいっせいに見つめられるので、なんだか居たたまれない気持ちになってくる(しかも上から見下ろされるのが不気味)。空気がよどんでいることもあり、何とも濃密な空間だった。

それにしても、暗闇の中で一人で彫り続けている修行僧の姿を想像すると、なんだか鬼気迫るものがある。今でも「念」が残っていそうな感じがして、あまり長居する気がせず、写真を撮った後すぐに退散することにした。

こういうちょっと変わったスポットを訪れるときは、離れるのがもったいなくていつまでも歩き回っていることが多いのだが、今回のように「さっさと出よう」という気持ちになったのは、おそらく初めて。

建物を出て、空を見上げると背後の樹木の葉がきれいに光っていた。

ほっと一息。

(2006.11.3)