バングラデシュ旅行記(ロケットスティーマー / 後編)

前のページでは主にロケットスティーマー内部を紹介したので、このページでは航行風景を載せることにする。船に丸1日乗っていると退屈ではないかと思うかもしれないが、まったくそんなことはない。船内や周囲の風景を見ていると本当に楽しく、優雅な船旅を楽しむことができた。


航行中の、船首の展望デッキからの眺め。この通り、水面には水草が多く漂っている。パドルが水草を巻き込むので、接岸時にはそれらを取り除く作業が必要になる。

川岸には、レンガ工場の煙突も多い。山が少ないこの国では、石材や木材の代わりに川の泥から作るレンガが建築資材として多用されているそうである。

航行中の動画を下に載せておく。パドルの上あたりから周囲の景色を撮ったものと、船首から前方を撮ったもの。

ときどき、小さな桟橋に接岸し、乗客の乗り降りが行われる。この船着場の名前はわからないが、日本の無償援助によって作られた桟橋という記述があったので、写真を撮ってみた。船に乗っていたオランダ人男性は、これをみて「日本はなかなかいいことをやっているね」と話していた。

接岸すると、下の写真に写っている板が渡され、それを使って乗客が乗り降りする。手すりがないので少し危ないが、そういうことはみんな気にしていない。

接岸中、せっかくなので桟橋に下りてみた。左下の写真の半円形の部分にパドルが収められている。桟橋では別れや再会の光景が繰り広げられていて、その中で好奇の目を浴びながら写真を撮って回った。

桟橋から見たロケットスティーマー。かなり大きいので、全体の写真を撮ることができない。こうしてみると、船というより2階建ての家という感じがする。

接岸中のパドル点検風景。水面に水草が多いので、どうしてもパドルが巻き込んでしまう。それらを取り除くことと、各部の点検のため、接岸中は必ずこのような作業が行われていた。職人さんがハンマーであちこちを叩きながら点検を行っている。

こちらの船着場では、廃船が桟橋として再利用されていた。ここで乗客の乗り降りを眺めていると、バイクが荷揚げされていた。車体に書かれていた文字をインターネットで検索してみたところ、これは日本製ではなくインド製の BAJAJ CT 100 というバイクだった。

周囲の景色とは不釣合いな感じだが、この地方の金持ちが購入したのだろうか。

この桟橋も、廃船が再利用されている。錆びた船の上で大勢の乗客が待っているというのも、なんだか不思議な光景に見える。なお、黄色く塗られている船橋が B.I.W.T.C. の事務所になっているようだった。

航行中に見た周囲の光景。漁をしている小舟から渡し舟まで、さまざまな船が行きかっている。これらの渡し舟を見ると、バングラデシュでは川は橋で渡るものではなく渡し舟で渡るものだということが一般的な認識になっていることが想像できる。いつか、こういう渡し舟に地元の人たちに混じって乗ってみたい。

小さな渡し舟以外に、こういう大型フェリーも停泊していた。かなり無骨な感じがするフェリーだと思う。

航行中、ときどき下の写真のような航路標識があった。川が網の目のように入り組んでいるので、このような標識が必要なのだろう。展望デッキから眺めていても、前方がほぼ同じ大きさの二つの川に分かれていて、「いったいどちらへ進むのだろう」と考えることが何度もあった。

周囲が次第に薄暗くなってきたころ、2階の展望デッキで前方を眺めていると橋が現れた。考えてみれば、航行中に橋を見たのはこれが初めてである。バングラデシュではまだまだ橋が架かっている道路は少ないということを改めて実感した。

すっかり暗くなった午後8時、ボリシャルという大きな町に着き、ここで大勢の乗客が乗り込んできた。1等船室も、それまではまだ空きがあったが、ここで満室になった。

午後8時半に夕食を終え、後は船室で本を読んだり、真っ暗な展望デッキで外を見たりして過ごした。展望デッキにいたとき、ボリシャルから乗ってきたバングラデシュ人の乗客に「この国を旅行する外国人は珍しい。バングラデシュについてどのような印象を持ったか」と聞かれたので、「エキサイティングな国だ」と答えたところ、「エキサイティング?」と言ってむっとしたように立ち去っていった。どうやら気を悪くさせてしまったようなのだが、エキサイティングというのは何か悪い印象を与えるような言葉だったのだろうか。

スタッフに翌日の到着予定時刻を確認し、夜11時ごろ就寝。


翌日、朝6時半ごろ起床。船室の外に出ると、まだ周囲はやや薄暗いものの、川岸に建物が多く並んでいることから首都ダッカに近づいていることがわかる。いよいよ、長い船旅もこれで終わりになる。

周囲を行き交う船も、次第に増えてきた。

やがて、首都ダッカの船着場「ショドル・ガット」が見えてきた。岸壁には無骨な感じのフェリーが何隻も並んでいて、その端に接岸するらしい。

まだ早朝だが、ショドル・ガットは乗客や物売りたちで混雑している。

午前7時半に接岸。クルナから約27時間の長い船旅だったが、実に楽しかった。この船に乗ること自体がバングラデシュ最高最大のアトラクションと言われているが、それは本当だと思う。これほど珍しい船に乗ることができ、今回の旅行最大の目的は果たせた。

名残惜しかったが、これで船を下りることにした。船室に戻って荷物をまとめ、食事代金とスタッフへのサービス料を清算してから(明細を紛失したので正確な金額は憶えていないが、確か日本円にして1,000円弱だったと思う)、下船した。

なお、一緒に乗っていた他の外国人旅行者たちは、この日はダッカに泊まるということなので、ここで別れた。

岸壁上から、ロケットスティーマーの写真を撮ってみた。大きな船なので、斜め前方からでないと全体が入りきれない。

ショドル・ガットを離れる際、屋根に隠れているものの、ようやくロケットスティーマーの全体を撮ることができた。

このロケットスティーマーについては、さすがに老朽化が進み、廃船の噂もあることから、乗ってみたい人は早めにバングラデシュを訪れてみてほしい。船自体にはそれほど興味がない人でも、この優雅な船旅については、体験する価値は十分にあると思う。間違いなくバングラデシュ最高最大の魅力的な観光資源といえる。