カンボジア&タイ旅行記(キリングフィールド)

「キリングフィールド」とはポルポト時代の処刑場の跡地のこと。映画のタイトルにもなっているので、知っている人も多いと思う。

カンボジア各地にキリングフィールドがあるが、もっとも有名なキリングフィールドはプノンペン郊外のチュンエク村という場所にある。ここはS21収容所(現在のトゥールスレン刑務所博物館)の付属施設として作られた処刑場で、観光客向けに整備されている。人間の狂気を感じる場所として、今回のカンボジア旅行でぜひとも訪れてみたい場所だった。


ボンコック湖畔からトゥクトゥクに乗り、キリングフィールドへ向かう。バイクタクシーと違って安定しているし、ゆったりと乗れるので移動中は快適なもの。トゥクトゥクはプノンペンとの往復(帰りはワットプノンまで)を頼んでいて、料金は20ドル。

約30分でキリングフィールドに到着した。地雷の影響なのか、片足がない人が歩いている。(もちろん観光客相手の物乞いの人だとは思うが)

トゥクトゥクはここで待ってもらうことにして、キリングフィールドの中に入る。チケットは入場料金が2ドルとオーディオセットが3ドルの合計5ドル。パンフレットをもらい、続いてオーディオセットの言語について聞かれたので日本語を選んだ。パンフレットの地図に番号が書かれていて、その番号に合わせてスタートボタンを押すとその場所の説明を聞くことができるというもので、おかげでキリングフィールド内の様子がよく分かった。

正面に見えるのが慰霊塔。

きれいに整備された通路を歩き、まずは慰霊塔へ向かう。途中にあった「トラック停車場跡」でクメールルージュの刑執行人の証言を聞き、すっかり暗い気持になったところで慰霊塔へ。

では、靴を脱いで慰霊塔の中に入る。ここからも頭蓋骨が並んでいるのが見える。

天井近くまで収められている、たくさんの頭蓋骨。ここから掘り出された遺体の頭蓋骨を供養のために収めてあるそうで、他の部位は埋め戻してあるという。

このすべてが処刑された人たちであることを考えると、何ともいえない気持になる。

欧米人旅行者に混じって慰霊塔の中を一回りしたが、みんな静まり返っている。こういう景色を見ると本当に言葉が出ない。

慰霊塔を出て、キリングフィールド内を歩いてみた。果樹園が広がっていてのどかなものだが、かつてここでは大量殺害が行われていたわけで、足元にもたくさんの遺体が埋まっていることになる。

この果樹園も囚人の強制労働で作られたものだという。

敷地の端のほうには池があり、さらに敷地の外には水田が広がっていた。本当に風光明媚なものだが、ところどころで休憩しながらオーディオで説明(生存者の証言や執行人の告白など)を聞いていると、すっかり沈んだ気持になる。

キリングフィールド内には、このように地面のくぼみがあちこちにある。これは遺体を掘り出した跡。

ここでひときわ目立っているのが「マジックツリー」と呼ばれている菩提樹。どうしてマジックツリーなのかというと、この木に設置したスピーカーから大音量の音楽を鳴らすことで悲鳴や処刑の音が近隣に聞こえないようにしたからだという。これには「何がマジックだよ!」という気持になる。

それに菩提樹といえば釈迦が悟りを開いた木として有名だが、その木をこんな目的で使うとは何とも罰当たりなことだ。

こちらは「キリングツリー」という木。説明書きにはこう書かれている。

KILLING TREE AGAINST WHICH EXECUTIONERS BEAT CHILDREN

つまり、子供をここに叩きつけて殺していた木ということになる。生存者の証言を元に描かれた絵がトゥールスレン刑務所博物館に展示されていたが、まさに狂気の沙汰だった。

キリングツリーのアップ。カンボジアに侵攻したベトナム軍がこのキリンフィールドを発見したとき、この木には脳漿や体液がべっとりと付着していたという。慰霊の気持を持って、樹皮に少し触ってきた。

キリングツリーの横には、100人以上の子供の遺体が見つかったという大量埋葬地がある。殺してそのまま横に埋めておいたということだろう。まったく、ひどい話だと思う。

この後、オーディオの説明を聞きながらキリングフィールド内を散策した。このオーディオセットはなかなかの優れもので、各場所の説明がよく分かる。生存者の証言や処刑の様子(自分の処刑執行書に自分で署名させてから処刑するという非道さ)を聞いていると、本当に言葉が出ない。クメールルージュは弾がもったいないため銃殺は行わなかったそうで、処刑道具は斧や棒や農作業用機具だったという。欧米人旅行者たちも同様の気持らしく、みんな静かに歩き回っている。

ここの責任者だったドイク元所長は捕らえられて処罰されたそうだが、張本人のポルポトは捕まることなく1998年に病死している。ポルポトが逃げ延びたことについては、どうやら諸外国の思惑が絡んでいるらしいが、それにしても不条理なもの。

ここには小さな博物館もあり、カンボジア各地に存在したクメールルージュの収容所とキリングフィールドの地図、都市部から農村への強制退去ルートなどが展示されている。しばらく見学した後、外に出て周囲を眺めてみた。

今は平和そのものという雰囲気で、ここが処刑場だったとは信じがたい。しかし1975年から1978年にかけて、ここで約2万人が殺されたのは事実。狂信的な人間が権力を持ったときの恐ろしさを実感することができ、有意義な体験だった。プノンペンを旅行することがあれば、トゥールスレン刑務所博物館とキリングフィールドは必ず訪れてほしい。

敷地内にあった小さな店でアイスクリームを買って少し休憩し、これでプノンペンへ戻ることにした。キリングフィールド内を歩いたのは1時間半ほどだが、あっという間だった。チケット売り場でオーディオセットを返却し、キリングフィールドを出た。


待ってもらっていたトゥクトゥクでプノンペンへ戻る。

やはりバイクタクシーと比べてトゥクトゥクは快適。バイクタクシーよりは高いが、長い距離を移動するときはトゥクトゥクのほうがずっといい。風光明媚な田舎の風景の中を走り、やがてプノンペンに戻った。