アルメニア旅行記(エレバン~ゴリス)

アルメニア滞在3日目。この日でいったん首都エレバンを離れ、南部のゴリスへ向かう。ゴリスに2泊して近郊のタテヴ修道院などを見た後、ナゴルノ・カラバフ共和国に入ることにしている。

アルメニアを旅行する日本人自体が少ない上に、その多くはエレバン近郊止まりだと思うので、南部の滞在記は貴重かもしれない。なお、エレバンには4日後に戻ってくることになる。


朝8時に起床。この日は初めてアララト山の全容がきれいに見えた。

朝食後、3泊したホテルをチェックアウトし、宿泊料金の45,000ドラムを支払った。この NUR HOTEL は、ちょっと市街から離れていることもあり、静かで環境のいいホテルだった。離れているといってもアルメニアはタクシー料金が安いので、特に不便ということはない。エレバンに滞在する際はお勧めのホテルといえる。

フロントでタクシーを呼んでもらい、キリキア・バスターミナルへ直行した。タクシー料金は1,500ドラム。

ゴリス行きのバスを探さないといけないが、周囲の人たちに「ゴリス」と声を掛けるとすぐに見つかった。ナゴルノ・カラバフのステパナケルト行きのミニバスで、ゴリスで途中下車することになる。バス料金は5,000ドラム。

ミニバスの車内はこんな感じ。

次第に乗客が集まってきて、10時に出発。市街を離れると右側に広々とした景色が広がり、アララト山がきれいに見えるようになった。乗客たちもみんな眺めていたが、本当にきれいな山だと思う。大アララト山(右側の大きな山)と小アララト山(左側の円錐形の山)の車窓風景を載せておく。

ここで撮った写真を合成してパノラマにしてみた。

しかし、アルメニアにとって特別な山になるアララト山は、現在は外国領。乗客たちは複雑な気持で眺めているのかもしれない。

ずっとアララト山を眺めながら南に走り、途中で東に折れて次第に山の中に入っていった。ここからはずっと上り勾配が続くので、周囲の植物相もやがて高山植物のような感じに変わってきた。

途中で羊の大群に遭遇した。最初は道路を埋め尽くすくらい歩いていたが、その風景の写真は撮れなかった。ようやく車が通れるようになったところの風景。

エレバンを出発してから約2時間半、12時40分に休憩になった。特にドライブインのようなところではなく、道路沿いに店がいくつか並んでいるだけ。トイレに行き、店を眺めながら出発を待つ。

30分の休憩で出発。ここからさらに標高が上がるらしく、遠くに雪山が見えてきた。

途中、何だか廃墟みたいな集落が遠くに見えた。もっとも、よく見ると現役の建物らしいものも混じっているような気がする。廃墟なのか人が住んでいるのか、または季節によって人が住んだりする集落なのかはわからなかった。

さらに標高が上がり、眼下にも雪が見えるようになってきた。車内も次第に寒くなってきたが、しかし車窓風景はなかなかのもので、眺めていると飽きない。

遠くに牛が放牧されている風景も見えた。

やがて、車窓に湖が現れた。しかし寒そうな景色。

どうやらこの湖のあたりが最高地点だったらしく、この後は下り勾配が続くようになった。次第に雪が消え、樹木が見られるようになってくると、ときどき集落が現れる。そういう集落のひとつで乗客が下りていったので、名前もわからない村の写真を撮ってみた。

さらに標高が下がり、やがて谷底に広がっている町が見えてきた。何だかきれいな町だと思っていたら、ここがゴリスということだった。

エレバンから5時間弱、午後2時50分にゴリスに到着した。それなりに長い移動だったが、途中の景色がきれいなので特に疲れることはなかった。アルメニアを旅行する際は、エレバンだけでなくゴリスへの車窓風景もぜひ見てほしい。


バスが着いた場所はゴリスの町外れになる。乗客の多くはステパナケルトまで行くようで、ここで下りたのは2人だけだった。

これからゴリス市街へ移動して、まずは泊まるところを決めないといけない。町の中心部まで歩こうかと考えていたが、同じミニバスから下りた人がタクシーを呼んでいて、一緒に乗ることにした。といってもシェアタクシーではなく、それぞれが料金を払うということ。

とりあえず町の中心まで行くつもりだったが、同乗した客が「この人はホテルを探している」と伝えてくれたらしく、運転手が「ここにホテルがある」と言って下の建物の前で下ろしてくれた。タクシー料金は500ドラム。

ホテル名は Mirhav(ミルハブ?)。かなりきれいな建物で、何だか高そうな気もするが、とりあえず入ってみることにする。部屋は空きがあるそうで、案内されてみるとずいぶんと快適そうな部屋だった。

部屋のベランダからの眺め。山間部の集落という風景がすごくきれい。何というか、心が安らぐ眺めに感動した。

宿泊料金は1泊22,000ドラム。もちろん、探せばもっと安いところはあるだろうが、部屋と景色のきれいさが気に入ったので、ここに泊まることに決めた。これは約5,500円の価値は十分にあると思う。しかしタクシーの運転手もいいところを紹介してくれた。

部屋で少し休憩し、外出することにした。ゴリスはアルメニア南部の主要都市だが、人口は2万人ほどと、そんなに大きな町ではない。ホテル前の通りもこんな感じで、車もたまにしか通らない。

10分ほど歩くと町の中心にある広場に着いた。といっても閑散としたもので、人通りも少ない。もっとも、これは月曜日の午後という時間帯もあるのかもしれない。

これからゴリス郊外の「フンゾレスク渓谷」という場所へ行く予定だが、その前に周辺を散策してみた。横道に入るとすぐに未舗装道路になり、絵に描いたような田舎町の風景が現れる。何しろ谷底にある町なので、どの方向を見ても背後に山があるところがいい。

散策していたら道路わきに牛が繋がれていた。なんとものどかな光景。

遠くの岩山を見ると、岩自体が奇妙な形をしていて、ところどころに穴が開いているのが見える。あれは「オールドゴリス」というエリアで、あの穴はかつての住居跡。今の町がニューゴリスで、かつての町はあの岩山にあったという。ここは翌日の午後に歩いてみることにしている。

あの奇妙な岩山の形から、ここは「アルメニアのカッパドキア」とも呼ばれているという。2002年のトルコ旅行では日数が足りなくてカッパドキアへ行けなかったので、今回の旅行ではここでカッパドキアみたいな風景を見ることも目的のひとつだった。もちろん本家のカッパドキアよりは規模は小さいとは思うが、ほとんど人がいないらしいので、むしろ雰囲気を楽しめると思う。

そろそろフンゾレスク渓谷へ向かうことにして、町の中心のほうへ歩いていると唖然とする光景が目に入ってきた。

上の写真ではよく見えないかもしれないが、BMW の後部ガラスにはこう書かれている。

「DEATH TO TURKS」

あえて訳せば「トルコ人に死を」というところだが、これはさすがにやりすぎだと思う。そもそも現在のトルコ人は100年前のアルメニア人虐殺には関係ないのだし、こんなことを言っているとアルメニア人の評判を下げることになる。日本のネット上では、トルコとアルメニアの関係を日本と韓国の関係に例える人も散見されるが、確かにいつまでも過去にこだわり続けるのもどうかと思う。もっと未来志向に切り替えてはどうかと思うが、まあ部外者が考えるほど簡単な問題ではないのかもしれない。

では、次の目的地のフンゾレスク渓谷へ。町の中心の広場で客待ちをしていたタクシーと交渉して、郊外へ向かうことにした。