モルドバ&ルーマニア旅行記(キシナウ)

今回の旅行最初の目的国はモルドバ。日本人にとって、おそらくヨーロッパで最もマイナーな国だと思う。

ほとんどの人は一生訪れない国だと思うが、ヨーロッパ最貧国と言われているモルドバが一体どういう国なのか、かなり興味があった。あの「地球の歩き方」も刊行されていない国だし、どういう景色が見られるのか楽しみ。


早朝5時半、モスクワのシェレメチェボ空港に到着した。ただし着陸してからの移動に時間がかかり、飛行機を降りたのは6時。

ロシアでは空港で写真を撮ってはいけないというのは常識だと思うが、上海から乗ってきた中国人観光客たちはそれを知らないらしく、自由に記念写真を撮っている。それに紛れてアエロフロート機の写真を撮ってみた。

この直後、中国人観光客たちは予想通り空港スタッフに笛で注意されていた。

ここでの乗継ぎ時間は2時間で、トランジットエリアから出発ゲートへ移動すると搭乗時間目前。ターミナルで買い物をするような余裕はほとんどなく、6時40分にキシナウ行きの搭乗が始まり7時半にモスクワを出発。


午前10時半、モルドバの首都キシナウ国際空港に到着した。日本人はビザが必要ないのでスムーズに入国審査を終え、ターミナルへ。この通り、かなり近代的な空港だった。

ポケット WiFi の電源を入れると、すぐにネット接続できるようになった。

続いて100ユーロをモルドバの通貨レイに両替。受け取った金額は1,805レイで、1レイは約7.5円になる。こちらがモルドバ・レイ紙幣で、全種類でシュテファン大公の肖像画が使われている。すべての紙幣に同じ人物が描かれている国も珍しいと思う。

これから、予約してあるホテルがある市街地へ向かわないといけない。空港からのバスもあるようだが、ここはタクシーを利用することにした。ターミナル内のタクシーカウンターで申し込み、スタッフがタクシー乗り場まで案内してくれた。タクシー料金は100レイ。

平原の国だけあって、空港を出発すると周囲には広々とした景色が広がるようになった。街中には緑が多く、最貧国という感じはまったくない。まあ、最貧国といっても「ヨーロッパの中で」ということだし、世界レベルで見れば決して貧しい国ではないのだろう。

空港から15分ほどで、予約していた「コスモスホテル」の前に到着した。

ここを選んでおいたのは、モルドバが独立する前からある旧ソ連型ホテルに興味があったため。旧ソ連型ホテルにはキルギスのビシュケクでも泊まったことがあり、何となく薄暗く重厚な雰囲気が気に入ったのを憶えている。キシナウにも同様のホテルがあることがわかり、迷わずここを予約しておいた。宿泊料金は2泊で7,600円。

ホテルに入ると、ロビーがだだっ広くて薄暗いところはイメージ通り。まだ午前中なので、チェックインできるかどうか聞いたところ部屋は使えるということだった。こちらもイメージ通りに古いエレベーターに乗り、薄暗い廊下を歩いて1210号室へ。簡素だが、設備は問題ない。

ホテルからの眺め。平原の国だけあって、広々とした景色が広がっている。しばらく景色を眺めながら休憩した。ホテルの前にはなぜかゴーカートコースが作られている。

上海を1日中歩いた後、夜行フライトで移動したので急に疲れが出てきた。このままベッドに横になり1時間ほど休憩。

1時ごろ外出することにした。ホテルの前にはグリゴリー・コトフスキーの大きな騎馬像がある。

まずは昼食にすることにしたが、安そうなレストランがどこにあるのかがわからない。そこでデパートの中ならフードコートがあるかもしれないと思い、近くの FOX MART という建物(ホテルの部屋から撮った写真に写っている)に入ってみた。

最上階にレストランが並んでいて、この店で牛肉の炒め物を注文してみた。水と合わせて値段は115レイ。味はまあまあ美味い。

通路を挟んで反対側の店にキッコーマンの醤油と米袋が置いてあり、米袋にはなぜか錦(NISHIKI)と書かれていた。この店は日本料理店ではないが、実はこのフロアには寿司店があった。モルドバでは案外日本食が浸透しているのかもしれない。

昼食後、キシナウ到着日にどうしてもやっておかないといけない用事があるので、キシナウ駅へ行ってみた。駅はホテルの近くにあり、歩いていくと予想以上に立派な駅舎が見えてきた。ファンシーな外観にびっくり。

中に入ると電光掲示板があり、行き先としてモスクワやサンクトペテルブルクなどロシアの都市ばかりが並んでいた。

壁に設置されている時刻表を見ると、国際線6便と国内線5便しか発着する列車はないことになっている。ここで、翌々日にブカレストへの夜行列車があるかどうか調べないといけない。時刻表にはブカレスト行きの列車が載っており、そこに「ZILNIK」と書かれている。

ここでポケット WiFi が役に立った。「ルーマニア語、ZILNIK」で検索するとすぐに「DAILY」と表示され、毎日の運行ということがわかった。本当に、便利な時代になったものだ。

列車があることがわかったので安心して窓口へ行き、日付と行き先を書いた紙を見せてチケットを購入しようとした。すると窓口の女性が驚くほど流暢な英語で対応してくれて、こちらもびっくり。これなら紙に書いておく必要はなかった。

これが無事に購入できたブカレストへの国際夜行列車のチケット。種別は1等客室で、料金は736レイ。

旧ソ連地域といえば、かつては共通語はロシア語だったため英語は通じないというのが常識だったが、さすがに意識が変わってきたのだろう。しかし、ここまで完全に英語が話せる人がいたのは幸運だった。当初の予定通りにルーマニアへ移動できることになり、ほっと一安心。

チケットを入手し、しばらく駅を見てみることにした。こちらがホーム。

発着する列車が1日に11便しかないので、それ以外の時間は閑散としているらしい。広いホームには誰もいない。

しかし発着する列車が少ないわりに駅が立派なのが不思議。また、旧ソ連地域では線路は広軌なので、日本人からすると線路がかなり広く感じる。モルドバとルーマニアでは線路の幅が違うため、国際夜行列車では国境で台車の付け替え作業があり、それを見学するのも楽しみにしている。

駅を出て、近くにあった陸橋から線路を眺めていることにした。階段付近では「ジプシーマーケット」が行われているそうで、あまり規模は大きくはなかったが露店がいくつかあり、陸橋にも商品が掛けてある。しかしジプシーということは店をやっているのはロマの人たちなんだろうか。

陸橋の上からの眺め。先ほどチケットを入手したキシナウ駅が眺められる。

駅での用事が終わったので、これでキシナウ駅周辺を離れ、次に凱旋門の方へ歩いてみることにした。ホテル前のロータリーから緩やかな坂道を上がり、後は街路樹の多いシュテファン大通りを北西に進む。建物もいい感じなので、歩いていると楽しい。

トロリーバスを見ると、何となく旧共産圏というイメージがする。新しい車体と白い建物のコントラストがきれい。

やがて凱旋門の前に到着した。凱旋門といってもパリのようなイメージではなく、キシナウの場合はかなり規模が小さい。特に凱旋門の前が広大な広場になっているので、余計に小ささが際立っている。

車が途切れたときに道路を渡って凱旋門へ。1846にロシアのトルコからの勝利を称えるために建てられた門だそうで、きれいに正方形をしている。門の中にはモルドバの国旗が掲げてあった。

凱旋門の奥にあるのがキシナウ大聖堂。最初に立てられてのは1830年だそうで、大聖堂だけでなくその前にある鐘楼も白と黒の外観がきれい。

大聖堂の向こうから、大音量の音楽と歓声が聞こえてくる。何かイベントが行われているようなので、そちらへ歩いてみた。

このときのイベントがどういう内容だったのかはわからないが、あちこちに「Good Deeds Day」と書かれていたのでおそらく慈善団体のイベントだったと思う。音楽に合わせて若者が踊り狂っていて、偶然こういうイベントに遭遇できて幸運だった。

イベント会場を後にして、大聖堂の方へ戻ると馬がいた。もちろん観光客用で、子供が乗った馬をスタッフが引いて歩いていた。今回の旅行の1年ほど前から趣味として乗馬を始めたので、馬装なども少しわかるようになり、ちょっと興味を持って眺めてみた。

凱旋門から道路を渡ったところにシュテファン・チェル・マレ公園がある。公園の入口に立っているのがモルドバ公国建国の父シュテファン・チェル・マレ像。チェル・マレとは大公という意味で、つまりモルドバの紙幣に描かれている人物になる。モルドバではあちこちにシュテファン大公の名前が付けられているそうで、モルドバ人はこの人が大好きらしい。

公園の中心には古そうな噴水があって、天気がいいので虹がかかっていた。完全に市民の憩いの場になっていて、こちらも地元の老人や子供連れの人にたち混じってベンチで休憩。緑が多いので気分がいい。

しかしここまで「最貧国」という言葉からイメージされるような景色はまったく見ていない。もちろん、まったく問題ない国というわけではないだろうが、世界レベルで見ればそこまで貧しい国ではないと思う。最貧国というのはあくまで「ヨーロッパの中で」という話。

聖書の一節を唱えているキリスト教関係者の団体をしばらく眺めた後、疲れてきたのでホテルへ戻ることにした。その途中、この建物の装飾に懐かしの鎌とハンマーのマークがあった。

このマークを見ると、モルドバが旧ソ連ということを思い出させる。今でもこのマークが健在なのはベトナムくらいか。

シュテファン大通りを走っているトロリーバスは、今回の滞在では乗る機会はなかった(翌日、沿ドニエストル共和国のティラスポリでは乗ったが)。生活臭のある大規模アパートも、何となく東欧らしいというイメージがある。

シュテファン大通りに面した「解放広場」広場に建つ男女の像。古そうな像なのでソ連時代のものだろう。ホテルから凱旋門へ歩く途中でも見ているのだが、そのときは逆光で上手く写真を撮れなかった。周辺の建物がやたらと威圧的で、像自体もいかにも共産主義というデザイン。

ホテルの近くまで戻ってきたときは、もうくたくた。この日は早く休むことにして、レストランを探すのも面倒なので昼に続いて FOX MART に入ることにした。

昼とは別の店に入り、スープ、パスタ、レモンティを注文したつもりだったのだが、パスタではなく魚のホイル焼きが出てきた。P で始まる綴り(正確には憶えていないが pasta に似ていた)だったのでパスタだろうと思ったのだが、ルーマニア語では魚料理だったらしい。まあ、こちらも味はおいしかったので問題ない。値段は全部で225レイ。

午後7時半、この日の散策を終えてホテルに戻った。しかし上海を1日歩いた後に夜行便で移動し、さらに街歩きをしたのでかなり疲れた。シャワーを浴び、後は部屋でゆっくり。

夜、テレビを見ているとこういう番組をやっていた。

今どき液晶ではなくブラウン管型テレビだったのでなかなかきれいには撮れなかったが、これはあの「クイズ100人に聞きました」の元ネタになった FAMILY FEUD のモルドバ版だろうか。

この旅行の1年半ほど前に中米の国ベリーズでアメリカ NBC テレビの FAMILY FEUD を見ていたため、今は FAMILY FEUD のことを知っているが、そうじゃなかったら「なんでモルドバでクイズ100人に聞きましたをやっているんだろう」と思ったはず。

クイズ番組が終わり、寝る前に外を眺めてみた。月がきれい。

この日は10時に就寝。翌日は日帰りで沿ドニエストル共和国の首都ティラスポリへ行くことにしている。