モルドバ&ルーマニア旅行記(ティラスポリ / 後編)

政府庁舎前の威風堂々としたレーニン像を堪能した後、さらに先へ散策。町の外れまで来ると、ドニエストル川沿いがきれいな公園になっていた。沿ドニエストル共和国の範囲は主にドニエストル川の東側だが、一部地域では両岸を実効支配している。ここは対岸もモルドバの実効支配が及んでいない地域。

川沿いは市民の憩いの場になっていて、日光浴している人も多かった。内陸国の住民にとって、ここはビーチリゾートのような感覚なのかもしれない。

ビーチリゾートといっても、川の水はそれほどきれいではない。あくまで日光浴するだけで、釣り人はいたが泳いでいる人はいなかった。

しばらく木陰のベンチで休憩した後、近くに騎馬警官がいたので写真を撮ってみた。もちろん、外国では国家権力には丁重に接するのが鉄則なので、撮る前に撮影の許可は取ってある。ちょっといい写真が撮れたので満足。

警官に礼を言ってから、この辺りで引き返して川沿いを街の方へ戻ることにした。この地域の住民にとってドニエストル川は主要な観光地らしく、こういう遊覧船も泊まっていた。

しばらく眺めていると、大音響で音楽を鳴らしながら出航していった。楽しそうに食事している船客を見送った後、川沿いをさらに歩くと橋が見えてきた。

橋の近くの広場では若者たちがスケートボードを楽しんでいた。おそらく、ここが自分の格好良さをアピールする場なんだろう。ちょっと微笑ましく思いながら横を通り過ぎた。未承認国のイメージとは程遠い平和な風景。

前述の通りここは対岸も沿ドニエストル共和国の実効支配地域なので、ここでは橋を渡ることができる。歩道はないが、予想外に立派な橋になっていた。

橋の上から、対岸にある砂地の川原が見下ろせる。おそらく、ここがティラスポリで唯一のビーチ(笑)だと思う。日光浴している人をアップで撮ったら、どこかの海沿いビーチリゾートに見えるかもしれない。

ドニエストル川沿いのビーチ(笑)を眺めた後、引き返して街の方へ戻る。川沿いにはあちこちに遊覧船が係留してあって、向こうには先ほどのビーチリゾートが見える。

ここで川沿いを離れて街中に戻ると、わりと大きなスーパーマーケットがあったので中に入った。品揃えはかなり豊富で、ここでは軽食のパンと水などが目的だったが、酒のコーナーにモルドバワインがあったので買ってみた(できれば沿ドニエストルの表示があるワインがよかったが、それは見つからなかった)。ワインは99ルーブル。

沿ドニエストルルーブルの硬貨には、なんとプラスチック製のものがある。このことは事前に知っていたので、何とか滞在中に入手できないかと考えていたが、このスーパーでの買い物のお釣りに1枚が含まれていた。これでもちゃんとした硬貨で、知らなかったらただのプラスチック板と思うはず。

沿ドニエストルの隠れた名物を入手でき、ほっと一安心。もちろん、このプラスチック硬貨は記念に持ち帰った。

水を飲みながら歩いていると、こちらの立派な建物の前にもレーニン像(ただし全身ではない)があった。

この近くには、こういうモニュメントがあった。おそらく沿ドニエストル共和国にとっての英雄みたいな人たちなんだろう。政治家と軍人が多いようだったが、宇宙飛行士もいた。

さらに、大祖国戦争の大きな壁画も。ここが今でもソ連の一員と思っていることがわかる。こういう絵は今はロシアにもないかもしれない。

町外れまで歩くと、こちらにも公園があった。先ほどのドニエストル川沿いの公園から、ティラスポリをほぼ横断して歩いたことになる。かなり整備された公園になっていて、中に入ってみる。

公園の中心に立っているのが、こちらの銅像。銘板から調べてみると、この人は「サフチェンコ・コトフスキー(1881-1925)」という名前だそうで、よく知らないがおそらくはロシアの英雄みたいな人だと思う。

ベンチで少し休んだ後、公園を歩いていると観覧車があった。

公園全体と、さらにティラスポリを見渡せると思ったので乗ってみることにした。料金は20ルーブル。

そして、乗ってみてびっくり。こんな開放的な観覧車があるだろうか。ゴンドラが何にも覆われていないし、出入口の鎖はプラスチック製だし、身を乗り出したらすぐに落ちそう。今まで人が落ちたことはないんだろうか。

この国に認可という制度があるのかどうかは知らないが、これは日本では絶対にありえない観覧車。ティラスポリの眺めはきれいだが、こんなスリリングな体験も珍しい。ティラスポリの隠れた名所と言っていいと思う。

この観覧車に乗れただけでも、沿ドニエストルに来た価値はあった。それくらい面白い体験で、今後ここまで開放的な観覧車に乗る機会はおそらくないと思う。この写真を見て興味を持った人は、ぜひティラスポリを訪れてほしい。高所恐怖症の人にはつらいかもしれないが。

スリリングな空中散歩を終え、続いて公園内の遊園地に入ってみた。

小さな遊園地だが、遊具はそれなりに充実していてジェットコースターもある。この日は月曜日なのでそれほど人はいなかったが、おそらく休日は賑わうのだろう。

こちらがジェットコースター。

これで公園内の散策を終え、街の方へ戻ることにした。また歩いてもいいが、そろそろ歩き疲れてきたことと、道路を頻繁に走っているトロリーバスに興味があったことから、ちょうどやってきたバスに乗ってみた。

ツーリストインフォメーションでトロリーバスの料金が2ルーブルということは聞いていたので、車掌(青い服を着た女性)に1ルーブル札2枚を渡すとチケットをくれた。トロリーバスといえば旧共産圏というイメージで、ちょっと面白い体験だった。エンジンとは違う独特の音が心地いい。

ほんの5分ほどの乗車だったが、現地の交通機関にも乗ることができ、満足した。こういうのも楽しい。

バスを下りたところからは教会と戦車が見える。

道路を渡り、戦車を近くで見てみた。こういう知識は持っていないので、戦車の形式等はわからない。ただ、ソ連崩壊時にモルドバの一部になりたくないために戦争を行い、事実上の独立を達成した地域からすると戦車は誇らしいモニュメントなんだろう。

しかし、住んでいる地域が世界からは国として認められていないというのは、住民にとってはどういう気持になるんだろう。クリミアと同様に、住民の本心としてはロシアに併合してもらいたくて仕方がないようだが、一般の日本人にとってはなかなか想像できない。

そろそろキシナウ行きの最終バスの時刻が気になってきたので、ゆっくりとティラスポリ駅のほうへ歩くことにした。この町の風景を再び見る機会はあるだろうか。

午後6時過ぎにティラスポリ駅に戻り、駅構内の窓口でキシナウまでのミニバスのチケットを購入した。こちらで買う場合はルーブル払いで、値段は39.9ルーブル。まあ当然だが、往路の値段(36.5レイ)とほぼ同じ金額。

同じミニバスでキシナウへ移動する人が犬を連れていて、足元を走り回っていたので写真を撮ってみた。

午後6時45分、キシナウ行きの最終便でティラスポリを出発。未承認国というと危険そうなイメージを持つ人もいると思うが、この町の雰囲気は平和そのものだった。かなり貴重な体験ができたので、今後も機会があれば未承認国めぐりをやってみたい。

出発してすぐ、かなり立派なスタジアムが見えた。この町には FC ティラスポリなどのサッカーチームがあるそうなので、その本拠地かもしれない。

外国でミニバスに乗っているとときどき遭遇するのが運行中の給油。日本人の感覚からすると「運行前にやっておけよ」と言いたくなるところだが、まあ常識は国によって違うもの。

ティラスポリを出発してから40分で「国境」に到着した。帰りはバスを下りる必要はなく、係員が乗ってきてパスポートチェックを行い、入国時に渡された紙切れを回収していった。なので特に時間もかからず、すぐに出発。

こういう未承認国に入ったのは「ナゴルノ・カラバフ共和国」「北キプロス・トルコ共和国」に続いて3ヶ国目。話のネタにも面白いので、次はアブハジアに行ってみたい。


キシナウに近づくにしたがって、次第に暗くなっていった。キシナウ郊外で「モール・ドバ(Mall Dova)」というショッピングモールの前を通ったが、ここは名前が面白いのでモルドバのちょっとした名所になっているらしい。まあ駄洒落というか、出落ちみたいな名前で時間があれば行ってみたかったのだが、今回の滞在では時間がなかった。モールの外観については、ネットで検索すれば見つかるので興味のある人は探してほしい。

夜8時、キシナウのバスターミナルに到着した。歩いてホテル方面へ戻り、前日に続いて FOX MART の最上階にある midpoint というレストランで夕食。注文したのはトマトスープとシーフードパスタで、これに旅行中くらいしか飲まないビールを加えて値段は190レイ。

食事を終え、夜10時前にホテルに戻った。翌日は夜行列車でモルドバを出国し、隣国のルーマニアへ移動することになる。この日は深夜1時に就寝。