国内旅行編(広島 / 耕三寺)

福山から三原へ移動し、三原港から高速船で生口島へ。生口島は平山郁夫美術館や柑橘類のテーマパーク「シトラスパーク瀬戸田」などのスポットがあり、かなり観光に力を入れている島といえる。

今回訪れたのは生口島観光スポットのひとつ「耕三寺」で、ここは初代住職の壮絶な親孝行ぶりを見ることができる寺。


生口島の瀬戸田港から徒歩10分ほど、商店街を通り抜けたところに耕三寺がある。この日は天候が悪く、朝から雨が降り続いていたが、それでも訪れている観光客はかなり多かった。

この耕三寺は「檀家がいない」という非常に珍しい寺になっている。では誰のためにあるのかというと、すべては初代住職が自分の母親のために作ったもの。詳しいことは下のほうでリンクしている耕三寺公式サイトを見てもらうとして、要約すると「亡き母への報恩のため、初代住職の耕三寺耕三が僧侶になって創建し、30数年をかけて完成させた寺院」ということになる。

母親が生きている間ならまだわかるが、すでに亡くなっている母親のためにこれだけの寺院を作り上げたというのがすごい。もっとも、自分のためにこれだけのものが作られたと知ったら、母親のほうも引いてしまいそうな気がするが。

初代住職は昭和45年に亡くなったそうだが、実に壮絶な親孝行人生だったようだ。


入口で参拝料の1,000円を払い、境内へ。境内はかなり広く、日本各地の有名建築物を模した建物がいくつも建てられている。下の写真は言うまでもなく日光東照宮の陽明門がモデル。

「有名建築物を模した建物」といっても、オリジナルそのままに複製されているわけではない。上の写真を見ればわかる通り、オリジナルに中国風味を加え、かなり派手に再現されている。

上の写真は奈良の室生寺を模した五重塔。他にも境内を歩いていると法隆寺の夢殿や京都の平等院鳳凰堂などがモデルの建物が次々と現れて、日本各地を旅行している気分になれる。

下の写真は高さ15メートルの救世観音。

境内には「千仏洞」という人工の洞窟がある。入口横に小さな窓口があるが、入場料等は必要ない。

洞窟に入ると、まずは閻魔大王がお迎え。続いて、八大地獄と六道の風景を描いた絵画がずらりと展示されている。立体ジオラマがないため、私が今までに訪れた地獄めぐり (石川県のハニベ巌窟院、徳島県の正観寺とお山公園、シンガポールのタイガーバームガーデンなど) と比べると物足りないが、洞内はいい感じに薄暗くて、雰囲気はなかなかいい。

「六道」というのは「地獄道」「餓鬼道」「畜生道」「修羅道」「人間道」「天道」のこと。宗教にはそれほど詳しいわけではないが、ちょっと調べてみたところ仏教には「六道輪廻」という考えがあって、すべての生物はこの六道をぐるぐると回っているものらしい。私は今は人間道にいるわけだが、次にどこに生まれ変わるか考えてみるのも面白い。金や食べ物にそれほど執着心がないから餓鬼道ではなさそうだし、よい行いばかりしているわけでもないから天道でもないだろう。人の縁をあまり大切にしないから畜生道あたりか。

多くの人は天道がいいのだろうが、しかし天道はなんだか退屈そうなんですよねえ。

地獄と六道を過ぎると、たくさんの地蔵で埋め尽くされたエリアに出る。このあたりは通路のアップダウンが大きく、洞窟らしい雰囲気になっている。

千仏洞の出口は救世観音の足元にあり、地上に出ると観音像を見上げる格好になる。これも演出なのだろうと思われる。

境内の最上層には「未来心の丘」というエリアがある。イタリアから取り寄せたという大理石が大量に使われている庭園で、広さは5,000平方メートルもあるという。ここからは生口島の基幹企業「内海造船」のドックがよく見える。

天気がよければ大理石が真っ白に光って見えるのだろうが、この日は天気が悪くて残念。

続いて、母親のために建てられた邸宅「潮聲館(ちょうせいかん)」へ。ここは別料金が必要とあって、建物内に入る人は少ない。

建物内はかなり広く、なかなか豪華なつくりになっている。下の写真は廊下と応接室。

このほか、仏間や寝室や浴室などもかなり手の込んだもの。それにしても、すでに説明したように母親が亡くなった後に建てられたわけで、本来の主人はこの建物を一度も使っていないことになる。それを考えると、この豪奢な邸宅がなんとなく空虚に感じられてしまうのだが…

その後、しばらく境内を散策。宝物館(「法宝蔵」という近代美術展示館と「僧宝蔵」という茶道美術展示館がある)の美術品を見た後、いったん正門を出て道路の向かい側にある「金剛館」へ。仏教美術展示館ということになっていて、こちらは重要文化財の山。しかしまあ、よくこれだけ収集したものだ。最後は感嘆しながら金剛館を後にした。

最後に、耕三寺をひととおり参拝した感想を一言で言うと以下の通り。

「親孝行もここまでくると呆れるね」

しかしまあ、境内の建物群や宝物館の美術品などは一見の価値は十分にある。興味を持った人は訪れてみてほしい。

瀬戸田港付近の商店街をしばらく散策した後、高速船で三原港へ戻り、普通列車を乗り継いで徳山へ。この日は徳山で1泊し、翌日、再び普通列車を乗り継いで佐世保へ帰った。

(2004.5.4)


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