ジョージア旅行記(スフミ)

アブハジア滞在最終日。この日のうちにジョージアに戻ることになる。ただ、そのためにはアブハジアのビザを取得する必要があり、それが気になっていた。

結果的にはぎりぎりで取得できたものの、アブハジア滞在があまりに短いのはちょっとリスクがあるかもしれない。今後、アブハジアを訪れる人は出国が数日延びてもいいように日程に余裕を持たせておくことをおすすめする。


朝8時半に起床。ホテルのチェックアウト時間が12時なので、まだチェックアウトはせず部屋に荷物を置いたまま外出することにした。この日もいい天気。

昨日、予想以上に現金を使ったので、この日も銀行に行ってATMで3,000ルーブルを入手した。それから、まずはビザの取得。昨日も訪れた外務省領事館へ行くと、この日は柵が開いていた。ドアも開いていて中に出入りしている人がいるので、ほっと一安心。

この胸像は、おそらくアブハジアの偉人。

建物の中に入ってみたものの、英語表記は一切ない。仕方がないので「ビザ、ビザ」と言いながら歩き回ったところ、建物内にいた人が場所を教えてくれた。まあ、こういうときは言葉が通じなくても誰か親切な人が現れるもの。

ビザ発給カウンターのようなところを予想していたが、通されたのは一般の事務室のような部屋。ここで政府の役人にパスポートと手数料350ルーブルを渡すと、5分ほどでビザを発給してくれた。これが、このときに取得したアブハジアのビザ。

シール式ではなく、パスポートに挟むような形式になっている。なぜパスポートに貼らないかというと、このビザは出国時に回収されるため。アブハジアに入った記念に持ち帰りたいものだが、それができないのが残念。このことは事前に知っていたので、取得してすぐに写真を撮っておいた。これからアブハジアを訪れる人は、ビザは回収されるので写真に残しておくことをおすすめする。

無事にビザを取得し、午前中はスフミ市街を歩き回ることにした。まずは、前日も訪れた旧国会議事堂の廃墟。

この日は時間があるので、できれば廃墟の中に入ってみたいと考えていた。そこで周囲を歩いてみたものの、残念ながら入れそうな出入口はなかった。こんな風に格子で閉ざされている。

格子の中にカメラを入れて、中を覗き込んで撮った写真。

建物の裏側に回ってみた。こちらは幕には覆われていないので、いい感じの廃墟感を出している。

階段が崩れて踊り場だけが残っているところにいた猫がいたので「入れませんか?」と呼びかけてみたが、じっとこちらを見つめるだけで返事は無し。

というわけで中央のオレンジ色の幕に覆われた廃墟には立ち入ることはできなかったが、その横にある建物(正面向かって右側の「2018」という幕に覆われた建物)には入れそうなことがわかった。

人がいないことを確認してから中に入ってみると、かなり素晴らしい廃墟感。

なぜこの建物が廃墟になったかというと、1992年にジョージア軍の侵攻により勃発した「スフミの戦い」で攻撃されたため。壁に残っているのは銃弾の跡かもしれない。

これらの部屋では、かつて国会議員たちが議論を行っていたんだろう。

しかし廃墟にベビーカーが落ちていると、なんだかドキッとする。心霊もののホラー映画などにありそうな光景。

屋根が落ちている区画では、一部が草に覆われ始めていた。

この階段で2階に上がってみた。かつては日本の国会議事堂みたいに赤絨毯が敷かれていたんだろうか。

なんというか、廃墟の階段には芸術的な美しさがある。

この建物が廃墟になった経緯を考えると喜んではいけないのだが、それにしても美しい。

足を踏み外さないように注意しながら、2階を歩いてみた。この部分は、かつては大きな廊下だったはず。

廊下の両側は床が完全に落ちてしまっている。

廃墟探索って楽しい。

そんなに時間がないので30分ほどで切り上げたが、しかし楽しかった。もっとも、廃墟に立ち入るのは本来はあまりおすすめはできない行為。廃墟探索はあくまで自己責任で。

旧国会議事堂の廃墟を後にして、続いて Sukhumi Central Bazaar へ行ってみた。旧国会議事堂から約1.5キロ、20分近く歩いたところにある。

外国でバザールやマーケットを歩くのは、地元の人たちの生活感が感じられて楽しい。

アブハジアといえばワインが有名と聞いていたので、酒類を扱っている店で赤ワインを2本買ってみた(360ルーブル)。当時のレートで1ルーブルが約1.7円だったので、2本で620円ほどになる。店のおすすめを聞いてから買ったので安物というわけではなかったと思うが、それにしても安い。

このワインは、帰国後にダイビングショップのパーティに持っていった。そのときの風景。

バザールを散策する途中、このカフェで休憩した。

チーズ揚げパンとカフェオレで65ルーブル。110円ほどなのだから、バザールでの食事は安い。スフミで安く食べたいときは、ここへ来るのがいいかも。ここでは、典型的な「ロシアのおばさん」という感じの女性にも会える。

バザールの雰囲気を楽しんだ後、ホテル方面へ戻ることにした。今回は機会がなかったが、トロリーバスに乗ってみるのも面白かったかもしれない。

生活臭のあるアパートを見ながら歩く。こういう風景も好き。

ホテルがある黒海沿岸に戻ってきた。観光地によくある、主要都市までの方角と距離を示した案内板に東京の文字があった。スフミからの距離は8,215キロらしい。

東京の上にバンコク(Бангкок)の文字があり、距離は6,653キロになっていた。タイからここへ来る人はいるんだろうか。

11時20分にホテルに戻り、荷物をまとめて11時40分にチェックアウト。すぐにスフミ駅に向かうつもりだったが、もう来る機会のない町かもしれないので、もう少しだけ海岸沿いを歩いてみた。最後に土産物店でアブハジアの風景が描かれた小箱を買い、これでスフミを後にすることにした。この厚紙製の小箱は机の上の小物入れとして使っている。

タクシーでスフミ駅へ移動し(150ルーブル)、マルシュルートカ乗り場で「イングリ」「ボーダー」と声をかけるとすぐに国境方面行きのマルシュルートカが見つかった。といっても国境まで直行するわけではなく、来たときと同様に途中のガルで乗り換える必要がある。ガルまでは250ルーブル。

12時半にスフミを出発。途中、スフミ市街で見た車窓風景がこちら。おそらく、これは紛争のときの銃弾の跡だと思う(違っていたらすみません)。

このとき乗ったマルシュルートカは、車内にモニターがあってテレビ番組が映っていた。政治的なニュースに見入る地元の人たち。

スフミ市街を離れると、マルシュルートカは広々とした景色の中を走るようになる。鉄道橋も眺められたが、今は使われていないはず。ジョージアとアブハジアを結ぶ列車がここを通る未来は、はたしてやって来るだろうか。

1時間15分でガルに到着。2日前はガル~スフミに1時間40分かかったので、このとき乗ったマルシュルートカは飛ばしていたのかもしれない。

2日前はガルで乗り継ぎ時間があったが、ここではすぐに国境行きのマルシュルートカに乗り換えて出発した。この区間の料金は50ルーブル。

移動中、突然馬が飛び出してびっくり。マルシュルートカの前を横切って走り抜けていったが、ここではよくあることなんだろうか。ぶつからなくてよかった。

ガルから15分で国境に到着した。ルーブルが少し残っていたので、小さな食料品店でパンとジュースを買い(45ルーブル)、これでアブハジアを出国することにした。

出入国管理所の係員にパスポートとビザを渡すと、ビザが回収されてパスポートだけが戻ってきた。繰り返すが、このビザを記念に持ち帰れないのが残念。

ただし、ここではまだパスポートにスタンプは押されず、正式に出国はしていない。少し歩いたところに小さな小屋があり(セキュリティ対策なのか窓口がパスポートしか通らないくらい小さく、中の様子はまったく見えない)、ここにパスポートを差し出すとスタンプが押されて戻ってきた。これがアブハジアのスタンプで、入国印が薄いのが残念。

未承認国に入った記録がパスポートに残ることを不安に思う人がいるかもしれないが、ジョージアでは特に問題になることはなかった。

正式に出国し、フェンスの間の細い通路を歩くと入国時にくぐったゲートが見えてきた。

ゲートを抜けて、イングリ側に架かる橋へ。これで正式にアブハジアの領内を出たことになる。

橋の途中で振り返って、アブハジア方面を眺めてみた。

周囲の風光明媚な景色を眺めながら歩いていくと、アブハジアが少しずつ遠くなっていった。再び、ここを訪れる機会はあるだろうか。

自分にとって4ヶ国目の未承認国訪問だったが(あと3ヶ国はナゴルノ・カラバフ、北キプロス、沿ドニエストル)、特に危険な思いをすることもなく、快適に滞在できた。ただ、旅行記ではあまり触れなかったが、英語は絶望的なほど通じない。簡単な単語さえ通じないので多少は苦労することはあるものの、しかし移動の際は地名を連呼すれば誰かが交通機関を教えてくれるし、意外と何とかなる。

一応記載しておくが、外務省の危険情報ではアブハジア全土にレベル3(渡航中止勧告)が出されている(2021年時点)。ものすごく危険な地域らしいので、ここに入る際はあくまで自己責任で。当然ながら日本の大使館や領事館はないので、何かトラブルが起きたときは自分で対処するという自覚が必要。

これからアブハジアを旅行しようと考えている人は、必要以上に緊張する必要はないが、しかし最低限の注意を持って入国してほしい。ロシア語の旅行用会話集などを持参すると、かなり役に立つと思う。

ジョージア側の国境の町ズグディディの滞在記については、次のページで。