ベトナム旅行記(ホーチミン / フートー競馬場)

この日の目的地はホーチミン市内にあるフートー競馬場。

旅行前にインターネットでホーチミンの情報を調べているときに、市内に小さな競馬場があることがわかり、興味があったので1日だけ時間をとって訪れてみることにした。外国で競馬場を訪れたのは今回が初めてだが、なかなか楽しかった。


このページで紹介しているフートー(Phu Tho)競馬場は2011年に閉場しました。いつか再訪したいと考えていましたが、残念ながらそれは実現できませんでした。この2006年の訪問記は、ネット上では貴重な記録になっているかもしれません。

10時ごろにホテルを出て、まずはファングーラオ通りにあるインターネットカフェへ。ここでメールをチェックした後、IPAT(JRAのインターネット投票システム)に接続して日本の競馬の馬券を購入した。日本語環境さえあれば世界中どこからでも馬券が買えるのだから、なんとも便利な時代になったものだ。

その後、しばらくはベンタイン市場付近を散策。ホーチミンの競馬は毎週土日に開催されていて、第1レースは昼過ぎというのは事前に調べていたので、それまで市内で時間をつぶすことにした。

昼ごろ、市場の前からタクシーに乗り、競馬場へ向かう。20分ほどで競馬場の正面に到着すると、さっそく予想紙を売っているガキどもが飛んできた。とりあえず1部(値段は2,000ドン)買ってからチケット売り場へ行き、ここで入場料の5,000ドンを払って場内に入った。

スタンドは、屋外の一般席と追加料金を払えば入ることができるVIP席に分かれている。VIP席はエアコンが効いていて快適らしく、そちらへ行くことも少し考えた。ただ、ちょっと手持ちのベトナムドンが少なくなっていたことと、やはりホーチミン庶民の熱い雰囲気を体験してみたかったので、このまま一般席にいることにした。

下の写真がスタンドから見たコースの全景。第1レースが始まる前なので、まだ観客は少ない。コースは予想していたよりも立派な感じで、コースの内側にはなぜかサッカーゴールなどが置いてある。

競馬場内をしばらく散策することにして、まずはコースの近くへ行ってみた。芝コースはなくダートコースのみだが、ダートといっても砂ではなく土。

冗談ではなく、本当に土。決して砂ではない。

今は乾季の終わりごろで、まだ雨季には入っていない。このためコースはパンパンの良馬場になっている。もし日本の競走馬が走ったら、おそらく故障発生するような感じ。

下の写真はパドックの近くにあった馬名表示板。馬名と負担重量が表示されている。電光掲示板などはなく、すべて手動になっている。

数字は16番まであるが、この日のレースはすべて12頭立てだったので最大出走頭数は12頭と思われる。

ただ、どういうわけか出走取り消しが多く、12頭中5頭が取り消しというレースもあった。

続いてパドックへ。

下の写真がパドックを周回中の競走馬。馬はサラブレッドということになっているようだが、日本の競走馬と比べてかなり小さい。馬体重はおそらく300kg程度ではないかと思う。

また、騎手は小学生くらいの子供。負担重量は30~40kgほどなので、これでは大人は乗れない。

聞くところによると、騎手として活動できる期間が数年間しかないため、その間に稼げるだけ稼いで引退するらしい。一部の有力騎手はかなりの高収入になるということだった。

この競馬場は、なぜかパドックが3ヶ所ある。スタンドの横、それにスタンドの前に2ヶ所で、おそらくは多くの観客に見てもらうための配慮だと思う。下の写真は3番目のパドックを周回中の競走馬。

この競馬場で一番驚いたのが、観客が馬房エリアまで入っていけること。

そのため、これから出走する馬が目の前を歩いていったり、レースを終えた馬が厩務員に洗われていたり、日本では見られないような光景を間近で見ることができた。

スタンド前には露店が何軒も並んでいて、ここで昼食の麺類やデザートにパイナップルを食べたりしながらレースが始まるのを待つ。第1レースが近づくと次第にスタンドが観客で埋まってくる。

12時45分、いよいよレースが始まった。この日に行われたレースの距離は1,000~1,250mで、向こう正面の中央あたりにゲートがあり、そこからスタートしてスタンド前を走ったところにゴールがある。

コースを1周するような長距離レースがあるのかどうかはわからないが、レースを見ていると半数以上の馬が最後の直線ではバタバタになっていたので、おそらく短距離のレースしかないものと思われる。馬体が小さいので、ばてるのも早いのかもしれない。それから発走時には特にファンファーレもなく、全馬がゲートに入るとそろっとスタートする。

レースの様子はスタンドのあちこちに設置されているモニターにも映されるが、これがなんとまったくズームされない。これではゼッケンの馬番号はさすがに見えないので、ベトナム語の場内実況放送が理解できないと何番の馬が先頭を走っているのかまるでわからない。直線の半ばまで来たところで、ようやく「買った馬が先頭にいる!」ということに気付いて喜ぶことになるわけで、ちょっと外国人には不便な感じといえる。

この日はアメリカ人観光客らしい4人ほどのグループがいて、その人たちは競馬場内でかなり目立っていたが、他の外国人はおそらく私だけだったと思う。まあ、旅行中にあえてこの競馬場を訪れるような物好きは少ないだろう。

それから、これはいまいち理由がよくわからなかったのだが、この競馬場ではどういうわけか最後の直線で外ラチ沿いぎりぎりのところを走る馬が必ず現れる。おかげでコース前の柵に寄りかかって観戦していると突然目の前を横切っていく馬に驚くことになるわけで、なぜわざわざ大外に出すのかよくわからない。

観衆はとにかく熱い。本当に毎レースがGIレースかと思うくらい盛り上がっている。下の写真はスタンドの最上段から見た熱狂する観衆。

レースが終わると、すぐに払戻し金額がモニターに表示される。この払戻金は10ドンに対する金額なので、実際の倍率はその1/10ということに注意しないといけない。馬単が的中したレースで、払戻金に “47” と表示されたので「47倍的中か?」と思ったら4.7倍だった。

レースの合間には表彰式も行われていた。この競馬場では1着だけでなく2着も表彰されるらしい。

第1レースは様子を見るために見送り、第2レースから馬券を購入してみた。

ここでこの競馬場の馬券システムについて紹介しておくと、売られているのは単勝 “Win”、馬単 “Exacta”、3連単 “Trifecta”、4連単 “Quartet” の4種類。場内にあるモニターには単勝、馬単の全オッズと3連単の上位人気が表示されている。モニターが足りないのか、4連単のオッズはどこにも表示されていなかった。

モニターの前でギャンブラーたちが真剣に数字を眺めている光景は日本の競馬場やウィンズと変わらない。マークシートはなく、売り場の前に束ねて置いてある紙に買い目を書いて窓口の姉さんに渡す。(例えば馬単の1→2,3に各1万ドンなら “EXA 1-2,3 10,000d” といった具合)

モニターでオッズを眺めていると、ほとんどのレースで人気が極端なくらいに数頭に集中していたが、この理由は実際にレースを見てみるとよくわかった。つまり人気馬と人気薄では勝負にならないくらいの力差があるのである。1,000~1,250mのレースにもかかわらず、先頭の馬がゴールしてから最後の馬がゴールするまで30秒以上かかることも珍しくない。後方の馬は最後の直線では走っているのか歩いているのかわからないような状態になっている。

これなら人気が偏るのも当然で、ほとんどのレースで配当はガチガチに堅かった。(もっとも、先頭を走っていた馬が突然転倒したレースがあり、このときはさすがに4連単が24万馬券になっていた)

この日の馬券成績は、7レース中5レースで的中したものの、配当が安すぎて回収率は60%程度だった(例えば3連単が的中したものの配当は3.6倍とか)。惜しかったのが最終の第8レースで、1着を決めて他3頭へ馬単流し、さらにその3頭の着順を決めて4連単1点の計4点勝負をしたところ、2着と3着が逆になってしまい馬単は的中したものの4連単は外れ。直線半ばまでは「4連単的中か?」と期待したのだが、最後に交わされてしまった。しかしまあ、4連単でも配当は11倍程度だったので、それほど落胆はなかった。

下の画像は第7レースの外れ馬券で、買い目は馬単の「4→2」「4→10」と4連単の「4→2→10→8」(金額は各10,000ドン)。的中馬券はすべて払戻したので手元には残っていない。(”SGRC” はサイゴンレーシングクラブの略)

午後5時過ぎ、最終レースが終了すると多くの観客がコースを横切ってコース内に入っていく。そして、ここで子供たちがサッカーの練習を始める。なんだかほのぼのとしていい雰囲気。

この後、周囲をしばらく散策した後、競馬場を出ることにした。儲けることはできなかったが、しかしまあ今回は楽しむために訪れたわけだし、ホーチミン市民の娯楽を見ることができてなかなか面白かった。(4連単を当てられなかったのは少し残念だが)

東南アジアの競馬場ではシンガポールと香港が有名だが、調べてみると他にもバンコクやクアラルンプールなどに小さな競馬場があるらしい。いつか訪れてみたいものだ。

前述の通り、この競馬場は2011年に閉場しています。現在、跡地がどうなっているか調べてみたところ「ホーチミン市スポーツセンター」としてサッカーグラウンド、フットサルのコート、ランニングコースなどが整備されているそうです。以下のサイトで紹介されており、貴重な情報なので載せておきます。


競馬場前からタクシーでファングーラオ通りへ戻り、インターネットカフェで翌日の(日本の)競馬情報をチェックしてから、いったんホテルへ戻って少し休むことにした。

周囲が暗くなった7時過ぎに外出し、いつも通りファングーラオ通りに並んでいる安レストランで夕食をとってからホテルへ戻った。


翌日はベトナム滞在最終日。この日でベトナムを離れ、香港を経由して帰国することになる。4泊したホテルをチェックアウトし、少し時間があったのでベンタイン市場を散策してから空港へ向かうことにした。

ホテルの宿泊料金は4泊で40ドルと、かなり安かった。もっとも、ベトナムの一般労働者の平均月収が1万円弱ということなので、現地の人から見れば月収の約半分ということになる。これだけの金額を簡単に払える日本人は、やはり相当な金持ちに見えるのだろう。例の福原愛似の娘さんは、残念ながらチェックアウトのときは見かけなかった。

ベンタイン市場をしばらく散策した後、タクシーで空港へ向かうことにした。20分ほどで空港に到着し、ベトナムを出国して次の経由地の香港へ向かった。今回はホーチミンだけの滞在だったが、この国は食べ物もうまいし、あと北部のハロン湾や中部のフエなども見てみたいので、いつか再訪したい。