南部アフリカ旅行記(ビクトリアフォールズ / バンジージャンプ)

ジンバブエ滞在最終日。この日は朝のうちにビクトリアフォールズ橋でバンジージャンプをやり、それから空港へ移動して午後1時の飛行機で南アフリカへ戻ることにしていた。

バンジージャンプをやるのは約15年ぶり。前回やったのはニュージーランドのオークランドで、高さはたしか46メートルだったと記憶している。今回はその倍以上、111メートルの高さを落ちることになる。2007年の時点で世界第2位の落下距離ということだった。

旅行中はあまり自分の写真は撮らないが、今回はせっかくなのでスタッフにカメラを渡して何枚か撮ってもらった。しかし何か悪用されても困るのでモザイクを入れておくことにする。


朝8時半にホテルをチェックアウトし、11時までバックパックを預かってもらうことにして小さなリュックサックだけを持って出入国管理所へ歩く。前日に続いてジンバブエをいったん出国し、9時にビクトリアフォールズ橋に到着した。

橋の中央にあるバンジージャンプ台に着くと、前日に会ったスタッフが憶えていてくれて事務所の場所を教えてくれた。事務所は橋を渡ったザンビア側にあり、ここで料金を払うことになる。

事務所に着くと、すでに5人ほどの欧米人グループが申し込みを行っていた。彼らに続いて私も申し込むことにする。

ここで内容の説明を受けたところ、バンジージャンプ以外に「ブリッジ・スイング」「ブリッジ・スライド」というアクティビティがあることがわかった。料金を聞くとバンジージャンプが90ドル、3つのアクティビティをセットで100ドルだという。10ドルしか違わないのであれば3つともやったほうが得に思えたので、ここではセットを申し込むことにした。1万円以上の金を払ってこんなことをやるのは、多くの人にとっては「馬鹿じゃないのか?」と思うようなことかもしれないが、私はどうしてもやってみたい。

申込書に記入し、100ドルを払った後で体重の測定がある(体重制限は40キロ以上140キロ以下)。そして、申込み番号と体重の測定値を腕にマジックで大きく書かれる。これがバンジージャンプをやったことの証明で、この後にビクトリアフォールズの町を歩いていると「バンジージャンプをやったのか!」と声をかけられて尊敬の対象になれる。

橋の上に戻ると、最初に申込みをやっていた欧米人グループのバンジージャンプが始まるところだった。さすがに彼らは陽気なもので、楽しそうに落下していく。

1人がジャンプすると、スタッフがワイヤーを使って降りていき、橋の上まで引っ張りあげてくれる。このため、そう次々とジャンプすることはできず、準備に多少の時間がかかる。

落下していく彼らを眺めていると、私が呼ばれた。まだ順番は後のはずなので不思議に思っていると、どうやらバンジージャンプの前に「ブリッジ・スイング」をやることになるらしい。欧米人グループはバンジージャンプだけらしく、ブリッジ・スイングをやるのは私が最初だった。

「ブリッジ・スイング」というのは、橋の数十メートル下流側に設置されたワイヤーと自分の体をロープで結び、落下してしばらくは振り子のように揺れるアクティビティのこと。バンジージャンプが真下に落ちるのに対し、こちらは斜め下方に落ちることになる。

バンジージャンプとは違って足首ではなく腰の辺りにロープを取り付け、自分でロープを持ってジャンプ台に立つ。

ジャンプ台の縁に立つと、予想しなかった事実に気づいた。

バンジージャンプより、こちらのほうがずっと怖い!

バンジージャンプは真下に落ちるわけだが、こちらは斜め下方へ飛んでいくことになる。自分の腰の辺りからロープがカテナリー曲線を描いてはるか先へ延びているのが見え「あんな先まで行くのか?」という気持ちになる。しかも、その方向にものすごく広大な空間が広がっているのを見ると相当な緊張感を感じる。

というわけで飛ぶ前の恐怖感はバンジージャンプよりブリッジ・スイングのほうがずっと強いことに驚いたが、今さらやらないわけにもいかないので、ともかくも飛ぶことにする。

スタッフから「ロープを手に持ったまま助走をつけてジャンプ台から前方へ強く駆け出し、飛ぶ瞬間にロープから手を離すように」などと難しい指示を受け、スタッフのカウントダウンとともに前に向かってジャンプ!

というつもりだったが、1回目はちょっと躊躇してしまった。あらためてスタッフにカウントダウンを頼み、今度は無事に飛び出すことができた。

落下中はもう無我夢中。しばらく息ができないし、自分がどういう状態になっているのかわからない。少し落ち着いてくると、ようやく自分が振り子のように揺れているのが自覚でき、ものすごく広大な空間の中にぽつんといることに次第に爽快感を感じてくる。

前後左右上下に何もない空間で揺れているのも、かなり気分のいいもの。この気持は、やったことのある人でないとわからないかもしれない。

揺れが収まった頃、スタッフがワイヤーを使ってロープを引き寄せてくれる。道路の一段下にある工事用通路に生還し、ほっと一息。

橋の上に戻ってきて、続いてバンジージャンプを行う。すでにブリッジ・スイングを経験したあとなので、正直言ってこの時点ではそれほど強い緊張感や恐怖感はなかった。「じゃあ、やりましょうか」という落ち着いた気持ちでジャンプ台に入る。

準備中、スタッフが足首をロープにしっかりと固定してくれる。

準備ができ、いよいよジャンプ。台の縁に立って下を眺めると、さすがに緊張してくる。落ちる前にカメラに向かって記念撮影。

では、スタッフの「5、4、3、2、1、バンジー!」というカウントダウンとともに前に向かってジャンプ!

最初に100メートルほど落下。それから落下距離の半分ほどを戻ってきて、あとは何度もバウンドを繰り返す。このときは達成感と爽快感で言葉にならないくらいに感動している。

バンジージャンプの話をすると、落下中にどういう景色が見えるのかを聞かれることが多い。やったことがある人ならわかると思うが、最初に落ちるときはずっと下を見ているので谷底を流れる川が次第に近づいてくるのが見える。しかし、その後に何度もバウンドを繰り返すときは川や空や崖や橋脚が順不同で見え、自分がどの辺りにいてどの方向を向いているのかまるでわからなくなる。

10回以上バウンドを繰り返して、ようやく収まってきたころにワイヤーで降りてくる人が見えた。最初はずいぶんと遠くに見えていたが、次第に近づいてきて「どうだった?」と声を掛けてくれる。ロープにワイヤーをつなぎ、一緒にワイヤーで巻き上げてもらって道路の下にある工事用通路に生還した。しばらくスタッフと「すごく楽しかった」などと話をしながら次の旅行者が落下していくのを見物し、橋の上に戻った。

最後に「ブリッジ・スライド」がある。これはアスレチックセンターなどでよく見かけるものと同じで、崖の上と橋を結ぶように設置されたワイヤーに椅子が吊り下げられていて、それに座って谷を渡るというもの。下の写真に写っているワイヤーに沿って向こう側から滑ってくる。(渡っているときの写真はない)

滑っている途中、はるか下を川が流れているのが見えるが、バンジージャンプをやった後では特にどうと言うこともない。あっという間に橋に到着し、バンジージャンプ台のほうに戻った。

上のほうのバンジージャンプの写真を見ればわかる通り、ジャンプのときはスタッフがビデオで撮影している。この後、ザンビア側の事務所へ行けば有料で映像を購入することもできるのだが、残念ながらもう時間がない。預けていたリュックサックを受け取り、スタッフに別れの挨拶をしてからジンバブエ側へ戻った。

ここのバンジージャンプについては、インターネットで検索しても日本語のサイトは少ないようだし、実際にジャンプを体験したことのある日本人はほとんどいないのかもしれない(2007年の時点)。かなり自慢話というか武勇伝になるので、ビクトリアフォールズを旅行する際はできれば体験してみてほしいと思う。

個人的にはこれが生涯2回目のバンジージャンプだったが、前回(ニュージーランドのオークランド)はクレーンの上からのジャンプだったので、今回のように橋の上から峡谷に落ちるのは初めての経験だった。このときの感想を言うと、かなり面白かった。1万円以上を払ってやってみるだけの価値は十分あったと思う。いつかまた、ここでバンジージャンプをやってみたいものだし、機会があれば世界のどこかでもっと高いところから落ちてみたい。


ホテルに戻ると空港からホテルまで乗ったときのタクシーの運転手が待っていた。2日前、ホテルに到着したときに帰りの飛行機の時刻を聞かれたので(もちろん客を確保しておきたかったのだろう)、こうして待機してくれていたらしい。フロントに預けていた荷物を受け取ってからタクシーへ向かうと、運転手が腕の数字を見て「バンジージャンプをやったのか!」と感心していた。今回は時間がなくて体験できなかったが、これで街中を歩くと人気者になれるらしい。

サバンナの中を地平線まで一直線に続く道を飛ばし、空港に到着した。年間10万パーセントを超えるすさまじいインフレが続き、失業率も80パーセントを超えるなど国が崩壊しつつあるジンバブエだが、今回は滞在したのが観光地のビクトリアフォールズだけだったこともあり特に旅行に支障は感じなかった。次回この国へ来るときは首都のハラレなども見てみたい。

ジンバブエを出国し、トランジットエリアへ。ここで、せっかくなので腕の数字の写真を撮ってみた。フラッシュで光ってしまったためあまり鮮明な写真を撮ることはできなかったが、これでもっと街中を歩いてみたかった気もする。

トランジットエリアはかなり狭く、小さな免税店とカフェがあるだけ。免税店に入り、前日にホテルで飲んだジンバブエのビール「ザンベジ・ラガー」がないかと思って探してみたが、残念ながら置いてなかったので代わりにワインを購入した。

来たときはブリティッシュエアウェイズだったが、帰りは南アフリカ航空。滑走路を眺めていると、やがて南アフリカ航空機がやってきて搭乗が始まった。

来たときのブリティッシュエアウェイズと同様、こちらも3列+3列というわりと小型の飛行機だった。空港を拡張してもっと大型機を就航させてもおそらく満員になるくらいのドル箱路線だと思うが、しかしそうすると滝周辺が観光客であふれることになるため今くらいがちょうどいいのかもしれない。

旅行前に「南アフリカ航空は出発前に機内に殺虫剤がまかれる」という話を聞いていて、果たして本当かと思っていたら本当だった。客室乗務員が殺虫剤のスプレー缶を持ち、周囲に吹きつけながら歩いているのも、なかなかシュールな光景だと思う。おかげで機内にはちょっと殺虫剤の匂いが充満することになる。

午後1時に離陸し、再び南アフリカへ向かった。このジンバブエという国にはいつかまた来たいと思う。次回ここへ来るときは現在の絶望的な状況からは脱していてほしい。