マレーシア旅行記(ゲンティン・ハイランド / 清水岩廟)

ゲンティン・ハイランドからタクシーで5分ほど、山の中腹にある中国寺院に到着した。今回のマレーシア旅行前、ここにかなり変わった寺があることがわかり、ぜひ見たいと思ったので訪れてみた。ここがゲンティン・ハイランドへ来た主目的地になる。


この寺だが、旅行前にインターネットで得た情報では “Chin Swee Cave Temple” という名前しかわからなかった。中国寺院なので漢字での名称もあるはずと思っていたところ、ここで土産に買ったTシャツに「清水岩廟」と書かれていたので、これが中国名だと思う。

下の写真が寺の門。

タクシーを降りたのは大きな塔の前。タクシーはゲンティン・ハイランドとの往復を頼んでいるので、戻ってくるまでここで待機してもらうことになる。近くには小さな土産物店がいくつか並んでいるが、そこは後で見ることにしてとりあえず寺の中を歩くことにした。

歩いていると、すぐ近くにロープウェイの乗り場があった。麓とゲンティン・ハイランドを結ぶ路線とは別の、ゲンティン・ハイランドとゴルフ場方面を結ぶ路線が寺のすぐ近くを経由していたらしい。ゲンティン・ハイランドを歩いているときにロープウェイが2路線あるのは気づいていたが、まさか寺の近くを通っているとは知らなかった。この路線は運行していたので、これならタクシーを使わずロープウェイで来ればよかった。(旅行後にインターネットで調べたところ、このロープウェイ乗り場は “Chin Swee” というそのままの名前だった)

塔の前に階段があり、上がると広場がある。そこにあったのがこの石像。調べたところ、この人はゲンティン・ハイランドの創設者で 林梧桐(Lim Goh Tong)という人だった。19歳の時に中国福建省からマレーシアに渡り、1964年にゲンティン・ハイランドというリゾート施設を計画して、周囲からは困難な事業だという反対も多かったそうだが最終的に大成功を収めた実業家ということだった(2007年に90歳で死去)。

後ろの岩に刻まれているのは林梧桐氏の言葉で、中国語はわからないが漢字を見ているとなんとなく意味は推測できる。こういう立派な人物に対して、単に「珍寺を見たい」という気持ちで来たのは申し訳ないような気もする。

こちらは寺院内の案内図。敷地はわりと広く、山の斜面にいろいろな景観が作られているらしい。早速そちらへ向かうことにした。

斜面に沿って作られている通路はこんな感じ。歩いていると様々な場面が現れるが、これがこの寺の最大の見所になっている。旅行前、ここに地獄風景や極楽風景が作られていることを知り、ぜひとも見たいと思ったのが今回この寺へ来た理由になる。

西遊記の場面。これは有名なのでよくわかる。西遊記はマレーシアの人たちにも人気らしく、記念写真を撮っている人も多かった。

斜面に作られた極楽風景。後で気づいたのだが、どうやら通路を逆に回っていたようで、本来は極楽風景は最後に見る場面だったらしい。つまり最初に地獄風景を見せた後に極楽を見せることで悪行を戒め善行を勧めるという展開だったようだが、このときはまだ逆回りということに気づいていなかった。

やはり極楽には桃がよく似合う。それに天女などは斜面にうまく作られている。

こちらは斜面に作られていた鶴の群れ。斜面にうまく固定されている。

続いて観音像。かなり大きなもので、ここも記念撮影スポットになっている。

仏教でおなじみの六道輪廻の図。生き物はすべて「天道」「人間道」「修羅道」「畜生道」「餓鬼道」「地獄道」をぐるぐると回っているというもので、今は人間道にいる人が次はどこに生まれ変わるのかを考えてみるのも面白い。私は金や食べ物にそれほど執着心のない人間なので、少なくとも餓鬼道ではないと思う。

また、天道といっても極楽浄土とは違い、天人五衰という言葉がある通り煩悩からは解放されていない。極楽浄土(涅槃)とは、この六道輪廻を脱出した者が行く場所のことで、輪廻から解放されることを解脱という。

などとわかったようなことを書いているが、宗教に関する知識はあまり持っていないので間違っていたら指摘してほしい。

そして、ここからがこの寺のメインといえる地獄風景になる。今回この寺へ来たのは何よりこの地獄風景を見たかったからで、個人的に地獄めぐりは大好きなので期待しながら先へ進むことにする。

上の写真に「十殿」という文字がある。進んでいくと、これが「十」→「九」→「八」と減っていったので、ここでようやく逆回りに歩いてきたことに気づいた。

この先で延々と繰り広げられていた地獄風景の一部を下に載せておく。

いいですねえ。動くアトラクションはないが、なかなかよくできている。責め苦は生々しいものが多いが、血の池などはちょっとユーモラスな感じで適温だったら浸かっていられるかもしれない。亡者は老若男女さまざまで、普通に街中で見かけそうな容姿の人も多く、かなりリアルに感じる。ここに載せている他にもたくさんの地獄風景が作られているので、全部見たい人は直接訪れてほしい。

亡者のほかに鬼や獄卒も多数作られているが、その中で最も目立っていたのがこれ。異様に長い舌が特徴的で「一見大吉」と書かれている。旅行後に調べてみたところ本名は「謝将軍」といい、亡者の中から悪人を選別して地獄へ送る鬼ということだった。長い舌を出しているのは首を吊って死んだ過去があるためで、「一見大吉」というのは謝将軍に会ってもうまくやり過ごしさえすれば幸運が得られるという意味らしい(どうすればやり過ごせるのかまでは調べられなかったが)。

地獄を抜けると最後に大仏がある(もちろん、逆に歩いてきたので正しいルートでは最初に大仏を見ることになる)。大きさはかなりのもの。

これで斜面に作られた通路を一通り歩いたことになる。後でもう一度歩いてみることにして、次は広場を歩いてみた。一画に集会風景が作られている。

この寺自体が山の上にあるためか、天候が急変してきた。小雨が降ってきたので、この建物の中に入って雨宿りすることにした。上のほうに展望所が作られている。

展望所からは塔がきれいに眺められる。塔だけでなく山の景色もかなり雄大なもので、雨のため避難してきた人たちと一緒に景色を眺めながらしばらく休憩。

やがて雨が止んだので、塔へ行ってみた。中に入ろうとすると入口に「金玉満堂」の文字がある。台湾の金剛宮やジャカルタの金徳院でも見たので、今後もアジアの寺院で見かけることになる言葉だと思う。

螺旋階段を上っていくのは疲れるが、ともかくも最上階まで上がってみた。ここからは先ほど歩いていた斜面の通路や広場が見渡せる。本部の建物もかなり大きく、大規模な寺院ということがわかる。

塔を下り、さらにもう一度寺院内を歩いてから最後に土産物店に入ってみた。ここで、先ほど上った塔と「雲頂・清水岩廟」という文字がデザインされたTシャツを買い、これでゲンティン・ハイランドへ戻ることにした。

しかし期待以上に面白い寺だった。この寺については、まだインターネット上でも日本語の情報はほとんどないようなので訪れたことのある人は少ないと思う。どのガイドブックにも載っていないような寺だが、変わった場所が好きなら訪れて損はない。このページを見たことがきっかけで行ってみようと考える人がいたら嬉しいし、私もいつかまた再訪したい。


タクシーでゲンティン・ハイランドへ戻り、前日に空港のトランジットホテルに泊まった際にスターバックスの割引券をもらっていたのでコーヒーを飲みながら休憩。やがて帰りのバスの時刻が近づいてきたのでクアラルンプールへ戻ることにした。

バス乗り場でチケットを買い、麓のロープウェイ乗り場までバスで移動。バスセンターでバスを待っていると、周囲は激しい雨になった。やはり山の天気は変わりやすいということだが、しかし外を歩いているときに大雨にあわなかったのは幸運だった。

5時半にバスセンターを出発。来たときはタクシーだったため所要時間は約40分だったが、バスはそれより時間がかかり6時半にKLセントラル駅に帰着した。


いったんホテルに戻り、夕食のために外出して周囲を歩いてみた。ペタリン通りは相変わらず地元の人たちや旅行者で大混雑している。前日はフードコートだったが、今回は「雑飯」という店があったので入ってみた。並んでいる料理をいくつか選び、ご飯の上に乗せてもらうというシステムになっている。

料理を3品選んで、値段は6リンギ。味はかなりうまい。やはり食に関してはアジアの屋台や安食堂に勝るものはないと思う。

その後もチャイナタウン周辺を散策し、9時半にホテルに戻った。翌日はマレーシア滞在最終日で、郊外のバトゥ洞窟へ行くことにしている。