ポルトガル旅行記(エヴォラ)

この日と翌日はリスボンから日帰りで郊外へ向かうことにしていた。行き先については、蝋人形館を見たいと思っていたファティマはすぐに決まったが、もう1ヶ所がなかなか選べない。

オビドスやナザレやエヴォラなどの町を検討した結果、ようやくリスボンの南東にあるエヴォラを選んだ。ここは旧市街が世界遺産という観光地になっている。


朝7時に起床。アンジョス駅から地下鉄に乗り、アラメダ駅で路線を乗り換えてオリエンテ駅へ。地上に出て小さな店でパン等の食料品を買い込み、国鉄オリエンテ駅のプラットホームへ上がった。屋根のデザインが格好いい。

ここは主にポルトガル南部への列車が発着するターミナル駅で、もともと鉄道はかなり好きなほうなので、わりと頻繁に発着する列車を見ていると面白い。

やがてエヴォラ行きの列車が入線してきた。指定席なので車両を探して乗り込むと、車内はかなり快適そうな感じだった。

定刻は8時50分の出発だが、15分遅れで列車が動き出した。しばらくはリスボン市街を走り、セッテ・リオス駅で多くの乗客が乗ってきて車内はほぼ満席となった。

セッテ・リオス駅を出ると、やがてテージョ川に架かる4月25日橋を渡る。上段が車、下段が鉄道のつり橋で、4月25日というのはクーデターで独裁政権が倒れた日だという。

全長2,200メートルほどの大きな橋なので、眺めはなかなかいい。

橋を渡ると、後はきれいな田園風景が続く。オリエンテ駅ではホームに入る際に改札はなかったので、このあたりで車掌による検札があった。

エヴォラまでは1時間ちょっとで、景色がきれいなので外を眺めていると飽きない。もともと列車に乗っている時間は好きなので、かなり楽しめた。インターネット上の旅行記などを見ていると、便数が多いことからエヴォラまではバスを使う人が多いようだが、鉄道もお勧めだと思う。

10時20分、終点のエヴォラ駅に到着した。

ときどき細かい雨が降るような天候だが、外を歩けないほどのことはない。とりあえず駅から旧市街方面へ歩くことにした。10分ほどで旧市街の外れに到着した。

さらに10分ほど歩くと、旧市街の中心にあるジラルド広場に着く。少し休みたいのだが、広場にあるベンチはいずれも雨に濡れているため座れない。仕方がないので、昼食時にカフェで休むことにして広場の周囲を散策してみた。この通り建物は重厚な雰囲気があり、いかにもヨーロッパの旧市街という感じ。

ジラルド広場から東に延びる細い路地に、土産物店やレストランが集まっている。この路地を抜けるとカテドラルやエヴォラ美術館などの大きな建物が集まっているエリアがある。下の写真はその近くにあるディアナ神殿。2~3世紀にローマ人によって建てられたもの。

旧市街でもっとも大きな建物が、このカテドラル(エヴォラ大聖堂)。エヴォラで観光客が一番多いスポットになっている。3.5ユーロでチケットを買い、中に入る。

なお、カテドラルの外に宝物館が併設されているが、この時間は昼休み中で閉まっていた。そこで、宝物館(1ユーロ)については午後にまた再訪することにした。

このチケットで、カテドラル内だけでなく回廊と屋上に入ることができる。そこでカテドラルの内部は後で見ることにして、まずは屋根の上に上がってみた。カテドラル内には観光客は多いが、屋上へ来る人は意外と少なく周囲の景色をゆっくりと眺めることができた。

エヴォラの町並みもきれいだし、建物も細部まで凝っているし、ここにいると飽きない。かなり長い間、屋上を歩き回ることになった。

カテドラルの上からは横にある回廊が見下ろせる。屋上から下り、続いて回廊へ行ってみた。

回廊内部の様子。この遠近感のある眺めは見事で、おかげで回廊を何周も歩き回ることになった。

回廊も、屋根の上に上がることができる。そこからのカテドラルの眺め。

屋上と回廊を歩くのもかなり楽しかったが、そろそろカテドラル内部に戻ることにする。12~13世紀に建てられた大聖堂だそうで、ドームが見事。私はキリスト教徒ではないのでここで祈ることはしないが、こういう雰囲気の中にいると荘厳な気持になる。

カテドラルにあるパイプオルガン。それほど大きなものではないが、これは日本人にとって特別なものになっている。16世紀にはるばる日本からやってきた天正遣欧少年使節団がリスボンに滞在した際、この町を訪れてパイプオルガンを演奏したという記録が残っていて、まさにこれがそのパイプオルガンになる。レプリカなどではなく実物で、伊東マンショと千々石ミゲルが演奏したのが1584年だというから、その時代のものが現在でも演奏できる状態で残っているのはすごいと思う。

今回旅行先にエヴォラを選んだのは、このパイプオルガンを見たいと思ったことも理由のひとつなので、ここで実際に見ることができて満足した。(なお、エヴォラを選んだもうひとつの理由であるサンフランシスコ教会は後ほど紹介する)

では、宝物館がオープンする午後2時まで、いったん外に出ることにした。ジラルド広場に戻り、小さなカフェがあったのでパイとコーヒーの昼食にして、後は広場周辺の土産物店などを散策してみた。ポルトガル名産のコルクを使った製品(変わったところではシャツや傘など)とアズレージョ(装飾タイル)の鍋敷きなどが定番で、コルク傘などはネタ的にも面白い土産にはなるのだが、しかし場所を取るので諦めた。代わりにアズレージョをいくつか買い、カテドラルに戻った。

1ユーロでチケットを買い、祭壇の横にある扉から外に出て宝物館の建物へ。わりと新しい建物のようで、展示品は昔の調度品や絵画やなどが中心。13世紀に作られたという象牙の聖母像などは素晴らしかったのだが、館内は写真撮影禁止だったので、ここの写真はない。これだけのものが見られて1ユーロというのは、本当に安いと思う。もっとも、カテドラルに入るのに3.5ユーロ必要なので、全部では4.5ユーロになる。

宝物館の1階にあるカフェでコーヒーを飲んで休憩し、あとはエヴォラの旧市街を散策することにした。観光客向けの店が並んでいるエリアの他にも、ひっそりした路地や時々見かける犬などがいい感じ。

旧市街で見かけた看板。日本語があるのは嬉しいが、よく見るとトーストがステーキになっていたり「砂糖がない甘いもの」になっていたりする(直訳すればそうかもしれないが)。しかしサービスアウトなんていう言葉は初めて聞いた。

旧市街から城壁の外へ、水道橋が続いている。追いかけてみると、最初はアーチが少しだけ見えるくらいに低いが、やがて下を車が通れるくらいになり、さらにアーチの下に家が並び、城壁の外に出るとすっかり高架橋になるという変化が楽しめる。水が自然に流れるような傾斜を考えて作られているのだろうが、しかし古代ローマの技術力というのは本当にすごいと思う。

城壁の外で水道橋を眺めているとき、次第に雨が激しくなってきた。幸い、近くに屋根つきのバス停があり、ここに避難して雨をやり過ごすことができた。10分ほどで雨はほとんど止み、散策を再開。

続いて、エヴォラでぜひとも見たいと思っていたサンフランシスコ教会へ行ってみた。下の写真が教会の正面。

本当は教会そのものではなく隣にある別の建物が目的なのだが、まずは教会に入ってみた。15世紀の終わりから16世紀の初めにかけて建設されたゴシック様式の教会だそうで、内部はかなり荘厳なもの。

教会内部をそこそこに見学して、では隣の建物へ。いったん教会の正面から外に出て、別の入口から入るとチケット売り場がある。入場料は2ユーロで、さらにカメラチケットが1ユーロかかるが、ぜひとも写真を撮りたかったので併せて購入した。しかしこういうスポットで写真撮影可というのは嬉しい。

この建物は、ポルトガルを旅行する観光客の間でひそかに人気になっているらしい人骨堂。名前の通り、壁や柱に大量の人骨が埋め込まれている。写真で見たことはあったが、実際に見てみると迫力は予想以上だった。

ここは、修道士たちが瞑想を行う場所として16世紀に3人の修道士が墓地から5000体の人骨を持ってきて作ったものだという。そんなことをしてもよかったのかという気もするが、まあ遺体に対する考え方は国や宗教によってもかなり違うから、異教徒がとやかく言うこともないだろう。

今では飾りの一部のようになってしまっているが、この一体一体に数十年のドラマがあるわけで、それを考えるとなんだか押し潰されそうな気持になる。きれいに並んでいる頭蓋骨は、生前はどのような生涯を送ったのだろう。

人骨のアップ。なんだか 集合体恐怖症 を引き起こしそうな光景。

しかし予想以上にすごい場所だった。もっとも、大きな戦争や疫病などで一度に亡くなった人たちの人骨が集められているというわけではないから、その点では決して暗い気持になるような場所ではない。これほどの人骨を見ることのできる場所は世界にもそうはないと思うので、ポルトガル旅行の際は訪れてほしい場所といえる。

そろそろ帰りの列車の時刻が近づいてきたので、歩いてエヴォラ駅へ。駅の中にあった小さなカフェでパンを購入し、午後5時にエヴォラを出発してリスボンへ戻った。下の写真は4月25日橋を渡っているときの風景。

夕方6時半、オリエンテ駅に到着した。前日、駅の横にあるバスコ・ダ・ガマショッピングセンターに入った際、1階に大型スーパーマーケットがあるのを見ていたので、ここで土産物等の買込みを行った。帰国後に周囲に配る土産物については、土産物店よりもこういうスーパーマーケットのほうが面白い菓子などが見つかるので旅行中はできるだけスーパーマーケットを探すようにしている。ここではポルトガルらしいデザインのチーズタルトとビスケットが購入できた。

この後、地下鉄の駅へ移動し Viva Viagem というチケットを購入した。この日の朝まではリスボン到着時に空港で購入したリスボンカードが使えたが、この時間は有効期限が過ぎている。そのため地下鉄が1日乗り放題となるチャージ式のチケットに乗り換えることにした。料金は5ユーロで、発券手数料の0.5ユーロがかかるため最初の購入時は5.5ユーロになる。

地下鉄でサンセバスティアン駅へ移動し、この日はエル・コルテ・イングレスというショッピングモールのフードコートで夕食にした。ロシオ広場のレストランで本格的な料理を食べることも考えたが、これは翌日のリスボン最後の夜に回すことにして、ここではフードコートで安めの料理を選んだ。もっとも、安いといっても値段は7.75ユーロで、アジアなどと比べたらずっと高い。

ショッピングモール内をしばらく散策した後、地下鉄を乗り継いでアンジョス駅へ。夜9時過ぎにホテルに戻った。