ポルトガル旅行記(ファティマ / 蝋人形館)

この日の目的地はキリスト教では有名な聖地のファティマ。もっとも私はキリスト教徒ではないので、ファティマの奇跡自体にはそれほど関心があるわけではない。このファティマには奇跡をテーマにした蝋人形館があり、ぜひとも見てみたいと思ったことがファティマに来ることになったきっかけになる。

キリスト教徒の人たちには失礼かもしれないが、ここには蝋人形館の他にもうひとつ面白い博物館もあり、さらに教会への供え物も楽しめたりして意外とB級スポット的な面白さのある町だった。


朝8時に起床。9時前にホテルを出て、地下鉄を乗り継いでジャルディン・ズロジコ駅へ移動。ズロジコとは動物園という意味で、駅の近くに動物園がある。今回は動物園に行く時間はないので、駅の壁に描かれている動物の絵だけを眺めてきた。

ちょっと分かりにくい場所にあったため道に迷ったりしたが、ともかくもセッテ・リオス・バスターミナルに着いた。ファティマ行きは30分から1時間おき程度の運行で、窓口で10時半発のチケットを入手できた。料金は11.5ユーロ。

出発前に急に大雨が降ったりしてあせったが、出発するころには小降りになり、やがて晴れ間が広がってきた。バスは座席もゆったりしているし、車窓風景もかなりきれいなので、移動中は本当に快適だった。

ちょうど12時にファティマのバスターミナルに到着し、乗ってきたバスの写真を撮ってみた。このバスはファティマ行きではなくポルトガルの北端に近いブラガンサという町が終点(リスボンから所要7時間ほど)なので、この通りかなり大型のバスになっている。

まずは帰りのバスの時刻を調べ、午後3時発のチケットを購入した。明るいうちにリスボンのアルファマ地区を見たかったので、あえて3時間という短い滞在にしたのだが、やはり少し慌しい観光になった。

聖教会があるファティマ中心部はバスターミナルから歩いて5分ほど。その途中にファティマ蝋人形館があり、まずはこちらに入ってみることにした。

チケットは7.5ユーロ。ここを見るためにファティマに来たようなものなので、期待しながら中に入る。館内はかなりきれいなのだが、しかし見事に誰もいない。この後訪れた教会前の大広場も閑散としていたし、どうやらこの時期はオフシーズンだったらしい。おかげで各ジオラマをゆっくりと見ることができたのはよかったのだが、しかし少し寂しいという気もする。まあ、大祭の時期には大勢の来館者があるのだろう(多分)。

ファティマの奇跡自体については、Wikipedia あたりを参照してほしい。バチカンが公認している奇跡のひとつで、3人の子供たちの前に聖母マリアが現れたというもの。時系列に沿って様々な場面のジオラマが作られている。

まずは最初の聖母マリア出現の場面から。第1次世界大戦中の1917年の話なので、戦闘の場面なども作られている。右の写真がマリアを見た3人の子供(ルシア、フランシスコ、ヤシンタ)の姿。

それにしても、写真で残されている3人の子供の容貌と蝋人形の外観をほぼ完全に合わせているのは見事。

こちらが聖母マリアの最初の出現シーン(1917年5月13日)。なんとなく、遠くに現れたマリアを眺めていたというイメージを持っていたので、子供たちがこんなに近くでマリアを見ていたというのが驚き。

聖母マリアのアップ。後述する通り、聖母マリアの姿は他の場面では作られていないので、これが唯一の蝋人形ということになる。

それにしても、かなりリアル。

その後、聖母マリアは毎月13日に10月13日まで現れているが、姿を見ることができるのは3人の子供たちだけで、大人たちには見えない。このためか、これ以降はマリアの姿は作られず、誰もいない空間を子供たちが見上げているという場面が続くことになる。しかしこれはこれでリアルというか、演出としてはいい感じだと思う。

他の人たちには聖母マリアの姿が見えないため、3人の子供たちは嘘つきと呼ばれて迫害されたこともあったという。各場面についての説明がポルトガル語のみなので詳しいことは分からないのだが、下はおそらくそういう場面だと思う。

しかし聖母マリア出現の話は周囲に広まっていき、多くの人たちが一目見ようと集まってくる。しかし相変わらず姿は子供たちにしか見えない。

ここで、聖母マリアが子供たちに見せたという地獄のビジョン(これは7月13日のこと)が作られている。このトンネルの先が地獄風景。

聖母マリアは火に焼かれる人間とサタンの姿を見せたということなので、この白い怪物はサタンなのかもしれない。ちょっとチープかもしれないが、わりとよくできていると思う。もっとも、キリスト教徒にとっては畏怖を感じる光景なのかもしれない。

地獄エリアを出ると、再び3人の子供たちについての場面が続く。こちらは馬車に乗るルシアとヤシンタ。意味もなくこっちを見ている老婆がいい感じ。

馬車の後ろに乗っているルシアのアップ。

そして最後の出現場面(10月13日)。

このときは、何万人もの群集の前で太陽が狂ったように回転し、猛烈な熱で服が乾いてしまったという。オレンジ色に光る円盤でそれが表現されている。

もっとも、本当にそういう現象が起きたわけではなく、現在では群集全員が同じ幻覚を見たと説明されている。これは集まっていた新聞記者も同様で、ポルトガルの新聞で大きく報道されたことから実際にそのような集団幻覚が起きたらしい。

木に登っている男の子のアップ。(最初はフランシスコかと思ったが、前の場面のフランシスコとは容貌と髪型が違うので多分別人だと思う)

聖母マリアは子供たちに3つの預言を伝えている。これが有名な「ファティマの預言」で、そのうちの2つは第1次世界大戦の終結とフランシスコとヤシンタの死。預言通り、この2人の兄妹はまもなく病死している。その場面も作られていた。

1919年にフランシスコが亡くなり、1920年にヤシンタが9歳で死去。下の場面は棺に収められたヤシンタ。

もう一人のルシアは修道女になり、2005年に97歳で亡くなるまで長生きした。このルシアの他、ローマ教皇だけが知っているとされていたのが「ファティマ第3の預言」で、内容が極秘だったことから特にオカルト関係では繰り返し使われるネタになっている。

1967年5月13日、ローマ教皇パウロ6世がファティマを訪れ、ルシアとともに第3の預言の内容を発表する計画が立てられたが、直前になってなぜか中止されてしまった。下の場面で教皇の隣に立っている女性が、修道女になったルシア。

一応、第3の預言の内容は1981年のローマ教皇ヨハネ・パウロ2世の銃撃事件だったことが2000年にバチカンから発表されているのだが、しかし長年秘密だったわりには拍子抜けするような内容で、この発表を信じていない人も多い。内容を知っているルシアもバチカンに抗議していたそうだし、個人的にはバチカンは何かを隠しているように思えてならない。

その教皇の蝋人形も作られていた。これは2000年にフランシスコとヤシンタが列福されたときの場面。

教皇のアップ。これを蝋人形ではなく本人の写真と言ったとしても、ほとんどの人は信じることだろう。それくらいリアルで、近くで見ていると今にも動き出しそうな錯覚を感じるほど。

花の上で祈るピウス12世とヨハネ23世。第260代と第261代のローマ教皇で、このジオラマは今でも意味がよくわからない。

とりあえず第3の預言の内容とされている銃撃事件で助かったヨハネ・パウロ2世(ちなみに第264代)は、その御礼としてファティマを訪れている。そのときの風景も作られていた。

聖母マリアに祈る教皇のアップ。なお、ヨハネ・パウロ2世はルシアが亡くなった2ヶ月後に亡くなっている。

これで蝋人形館の内容を一通り見たことになる。蝋人形もリアルだし、何よりも作られているジオラマの数が30以上もあり、かなり楽しめた。地獄風景だけは少しチープだったが、これだけ豊富な内容を見られて7.5ユーロは安いと思う。

蝋人形館の出口の先は、この種のスポットのお約束通り、土産物店になっている。大きなマリア像などを買っても仕方がないので、英語版のパンフレットの他、十字架が描かれた小物入れを買ってみた。このパンフレットは全22ページのオールカラーで、館内の表示がポルトガル語のみだったので、値段は4ユーロするが入手する価値はある。

しかし、これだけ面白い博物館だというのに私の他に来館者がまったくおらず、完全に貸切り状態だったのは意外だった。ファティマへ来てこの蝋人形館を見ないのは本当にもったいない。ファティマの奇跡のことを知らなくても、このリアルな蝋人形は一見の価値は十分ある。ポルトガル旅行の際は、ぜひとも訪れてほしいスポットだと思う。