キルギス旅行記(ウルムチ編)

午後1時半、ウルムチの地窩堡空港に到着した。7日前、6時間だけ滞在して夜明かししたのが何だか懐かしい。

今回は1泊するのでウルムチを半日ほど観光できる。北京や上海などと違って中国を旅行する人もウルムチまではなかなか来ないと思う。中国の西の果てでウイグルの風景を少しだけ見ることができた。


このウルムチだが、旅行前に佐世保市在住の中国人女性(上海出身で日本在住歴は10年以上)に「今度、トランジットでウルムチに1泊するんですが、ウルムチには行ったことはありますか?」と聞いたところ、「とにかく危険な町」「住んでいるのは悪人ばかり」「街を歩いている人はみんな泥棒だから、スリに気をつけて」など、まあ散々な話を聞かせてくれた。といって本人はウルムチへは行ったことがないそうで、やはり漢民族のウイグル族に対する偏見というか、おそらくこれが中国人一般の認識なのだろう。日本人はむしろウイグルに対して同情の気持を持っている人が多いだろうし、今回は中国人女性から聞かされた悪評の数々は特に気にしてはいなかった。

問題なく入国手続きを終え、空港からタクシーでホテルへ向かう。今回はキルギス旅行で疲れが溜まっているだろうと考えたことから「銀星大酒店」という5つ星のホテルを事前に予約しておいた。タクシー運転手にバウチャーを見せ、ホテルへ直行。バウチャーに「銀星大酒店」と漢字で書かれていたので、それを運転手に見せるとスムーズに通じた。

ウルムチの中心部と空港は17キロほど離れていて、約30分でホテルに到着した。中国政府による西域開発政策のせいか、途中の道路はそれなりに整備されているので移動は快適。なおタクシー料金は62元だった。

こちらが今回泊まった銀星大酒店(英語名は Silver Star Hotel)。チェックインの際に、なぜかデポジットの100ドルが必要だった。

中国では外国人はどのホテルにでも泊まれるわけではなく、ある程度ランクが上のホテル(渉外ホテルという)しか宿泊できないという決まりになっている。今回も旅行前にインターネットのホテル予約サイトをいくつか見てみたが、値段の安いホテルを予約しようとすると「このホテルは中国在住者のみ利用可能」という表示が出て、ことごとく予約を拒否されてしまった。そこで「キルギス旅行で疲れが溜まっているだろうから、ウルムチでは高級なホテルにしよう」と考えを変えて予約したのが5つ星の銀星大酒店になる。

もっとも「外国人が泊まれるホテルと泊まれないホテルに分かれている」といっても実際は名目上のシステムになっているらしく、当日に飛び込みで入れば問題なく宿泊できることも多いという。中国をバックパッカーとして回っている人たちはこうやって泊まり歩いているらしいが、私の場合は1泊だけなのでおとなしく高級ホテルにしておいた。いつか中国を個人旅行することになれば、そのときは安宿にも泊まってみたいものだが、しかし私は台湾は大好きだが中国にはそれほど行きたいとは思わないので、はたしてそういう日が来るかどうか。

下の写真が泊まった部屋。

さすがに5つ星なので部屋は快適。しかしながら、このときはホテルで何かトラブルが起きていたらしく、一部の部屋しかお湯が出ないということだった。チェックインの際、申し訳なさそうに「シャワーの際は別の部屋に案内するので、フロントに連絡してください」と言われたが、今回は1泊だけなので不満は言わないことにする。

ウルムチは一番近い海岸まで2,500キロという極端な内陸都市なので、慢性的に水不足と思っている人もいると思うが、実は天山山脈の雪解け水のおかげで水は非常に豊富な町らしい。部屋でも水は問題なく使えたし、今回のトラブルはガス関係だったと思う(多分)。

ホテルからの眺めはこんな感じ。(建物が少し歪んでいるのは2枚の写真を合成したため)

それから、部屋の備品にこんなものがあった。

これを見たときは「高級ホテルでもラブホテル的な使い方をする人がいるのか?」と思ったが、後で調べたところ中国のホテルでは装備が義務付けられているらしい。日本では考えられないので、ちょっと意外だった。


部屋で少し休憩した後、出かけることにした。ウルムチの観光名所といえば、やはり新疆ウイグル自治区博物館にある「楼蘭美女のミイラ」が有名で、旅行者のほとんどがそこを訪れると思う。しかしながらフロントで博物館への行き方を聞いたところ「今日は日曜日なので閉まっている」ということだった。見たいと思っていただけにタイミングの悪さが残念。

では代わりにどこへ行くかだが、郊外まで行けば景色のきれいな観光地があるものの(天池という湖など)、ウルムチ市内にはたいしたスポットはないらしい。そこで「国際大バザール」という大きなバザールまで街歩きをしてみることにした。ホテルからバザールまでは約2キロ。

ホテルを出てしばらくは、上海と言っても通用するような景色が続く。

新疆銘菓の専門店「八大怪」。この店には入っていないが、国際大バザール内のカルフールでいろいろと菓子類を見かけたので土産に買っておいた。

途中、大きな橋を渡るときに川べりを見下ろしたところ、バラックが密集した貧民街のようなエリアがあった。すぐ近くの高層ビルとは対照的で、中国国内の格差を象徴するような景色だったが、さすがに写真を撮るのは憚られた(数人の住人がこちらを見ていたためという理由もある)。

橋を渡り、さらに先へ進む。やがて国際大バザールが近づいてきたが、ここで街の雰囲気が急に変わった。これまでは漢字の看板が並び、上海とそれほど変わらない雰囲気だったが、アラビア文字を基にしたウイグル文字が突然増えてきた。周囲の人たちも明らかにムスリムで、女性はみんな頭にスカーフを着用している。新疆ではウイグル族と漢民族のエリアが分かれているらしいという話は聞いていたが、こんなにはっきりしているとは思わなかった。

旅行前に中国人女性から散々悪評を聞いたウイグル族だが、私は別に偏見は持っていない。世界各地をバックパッカーとして旅行している人ならわかると思うが、イスラム諸国は意外と治安がよくて旅行しやすく(もちろん内戦状態の国は別)、さらに人々も旅行者に対して親切なのでバックパッカーはムスリムに対して好感を持っていることが多いように思う。(もっとも、これは私が男性だからかもしれない。女性の場合はセクハラの話も聞くので一概には言えない)

ここで危険があるとすれば中国人と間違われて危害を加えられるケースだが、いざとなれば「私は日本人旅行者です」と伝えればいいので、ここは特に警戒せずに街の雰囲気を楽しむことにした。

ウイグルのエリアに入ってすぐ、国際大バザールに到着した。中国語ではバザールは「巴札」と書くらしい。

バザール中央の広場には高さ80メートルのミナレットも作られている。旅行人ノートには「規模においてイスタンブールのグランドバザールを超えたと宣伝されているが、超えてどうするのだ」と呆れ気味に記述されている大規模なバザールで、たしかに大きさは相当なもの。入口のピラミッドの前で記念写真を撮っている団体客も多く、ウルムチでは楼蘭美女のミイラに次ぐ観光名所になっているらしい。

ミナレットやら玉ねぎ型ドームやらモスクの建築を真似てあるものの、しかし建物を見てもなんとなくハリボテ感が漂うというか、B級スポット的な感じがするところが面白い。

ミナレットは展望所になっているようだが、このときは改装中だったらしく中に入ることができなかったのが残念。一方、バザールの中はこんな感じ。

ここでは上の1枚しか写真を撮っていない。なぜかというと、バザール内の風景がどこも同じような感じだったため。もちろん売られているものはエリアごとに違うのだが、イスタンブールのグランドバザールのように迷路状にもなっていないし、どこも整然としすぎていて歩いていてもそれほど面白くない。残念ながら、しばらく歩いただけで飽きてきてしまった。

バザール内を一通り見た後、道路を渡って反対側を歩いてみた。和田(中国語でホータン)はウイグル自治区にある都市で、和田玉とはホータン地区で採取されるヒスイのこと。

散策の途中、この食堂で夕食にした。

注文したのはプロフとラグマンで、値段は40元。中央アジア料理のプロフとラグマンがあるあたり、ここが中国というより西方の中央アジアの影響を受けてきた地域ということがわかる。味はかなりうまい。

ここのラグマンは麺と具材が別に出てきて、自分で混ぜることになる。こういうラグマンは初めて。

しかし周囲のテーブルを見てもニット帽やスカーフを着用したムスリムばかりだし、顔つきも明らかに漢民族とは違うので、まだキルギスにいるような錯覚も感じる。ここが中国ということを実感するのは中国元で支払いをするときだけ。

夕食後、さらに周囲を散策してみた。下はここで撮った写真の中でも個人的に興味深く思っている1枚で、南大寺という寺院の前の風景。門の奥にあるのは派手な中華寺院なのだが、門の横には大きなペルシャ絨毯が掛けてあり、さらにブルカを着た女性が前を歩いている。ウイグルの地に中国が入り込んできていることを実感させるような光景。

この近くには屋台がたくさん並んでいる屋台街があった。

それほど広い屋台街ではないが、わりと人は多い。夕食の直後だったのでここでは何も食べていないが、こういう場所があると知っていれば先ほどの夕食を控えめにしていてもよかったかもしれない。

これは、この屋台街の中でもよくわからなかった景色。勢いよく吹き上がったジュースが筒状の網の中に落ちているというもので、あちこちの露店で同じようなことをやっていた。これでジュースが濾過されるとも思えないし、空気を多く含ませることでジュースの味がよくなるという話も聞いたことがないし、今でも理解できずにいる。

しかし、このジュース自体が合成着色料の塊のような感じで、なんとも体に悪そう。

国際大バザールに戻ると公安が歩いていた。正面から写真を撮るのが危なそうな感じだったので後ろ姿を撮ってみたが、それでもかなり緊張した。ちょっと貴重な写真かもしれない。

バザールの地階にカルフールがあり、食料品などは豊富にそろっている。帰国後に周囲に配るためのウルムチ土産については、すべてここで購入した。八大怪の菓子などは名前も面白いし、手軽な土産としてお勧め。

その後もバザールの周辺をしばらく散策したが、そろそろ歩き疲れてきたのでホテルへ戻ることにした。帰りはタクシーを利用することにしていたが、タクシーはわりと見かけるものの、どれも客が乗っているのでなかなかつかまらない。ちょうど客が降りるところのタクシーを見つけ、無事に乗り込んだときはほっとした。年配の女性運転手にホテルのカードを見せてホテルへ直行し、タクシー料金は20元。

下の写真はウイグルのエリアから漢民族のエリアへ入る辺りで見た屋台の風景。

午後8時、ホテルに戻った。上の写真ではそんな時間には見えないかもしれないが、中国には時差がない。中国の西の端でも北京時間を使用しているので、8時になっても暗くならないという事態が起きることになる。人口密度に大きな差があるというのが時差を作らない理由らしいが、やはりこれは北京政府の中華思想によるものだと思う。


夜10時になると周囲は真っ暗になった。下の写真がホテルの部屋からの夜景。

そろそろシャワーを浴びることにして、フロントに連絡すると別の階の601号室へ行ってほしいということだった。そこへ行くと廊下に別のスタッフが待っていて、鍵を開けてくれた。

この部屋はちゃんとお湯が出て、問題なくシャワーを浴びて自分の部屋に戻ると別のスタッフがフルーツ盛り合わせを持ってきてくれた。これはホテルからのサービスで、部屋でシャワーが使えないことへのお詫びということだった。

実を言うと「本当はお湯が出ないというのは嘘で、日本人ということで嫌がらせをしているのでは?」という疑いもわずかながら持っていたのだが、これを見てそうではなかったということがわかった。少しでも疑ってしまって申し訳ない。

部屋に戻ってテレビを見ていると、国防大学軍事学博士の房兵なる人物が「空母がいかに必要であるか」を延々と力説していた(多分)。しかし空母は単独では運用できず、周囲をイージス艦や巡洋艦や潜水艦で護衛する必要があるし、また搭載人員も桁外れに多くなり、その維持と運用には莫大な費用がかかる。空母をまともに運用できているのはアメリカくらいのもの。

空母を1隻作れば海域を支配できるというものではないのだが、しかし軍事の世界では往々にして冷静な意見よりも威勢のいいことをいう人がもてはやされることがあるから、何だか厄介なものだと思う。中国の人たちには、空母が大変な金食い虫であることも知っておいてほしい。

さらに別のテレビ番組では「安倍政権がいかに危険であるか」を解説者が力説していた(多分)。こんな番組をやっていると、本当は安倍首相を支持していない人でも「中国が喜ぶのは癪だ」という理由で消極的支持に回るような気がする。まさに逆効果。

この日は夜11時半に就寝。


翌日は早朝5時に起床。チェックアウトしてデポジットの100ドルを受け取り、フロントで「タクシーを呼んでほしい」と言うと、なんと「この時間はタクシーは呼べない」ということだった。一応、スタッフの一人がホテル前の通りに出てタクシーを探してくれたが、近くにはいないらしい。5つ星のホテルでも早朝はタクシーを呼べないというのが驚き。

仕方がないので、ホテルを出て大通りへ歩く途中、タクシーが通らないか注意しておくことにした。車自体がほとんど通らないので望み薄だが、大通りまで行けばタクシーはあるだろうと考えていたところ、そこまで行かずに通りがかったタクシーを捕まえることができた。ここから空港へ直行。

ちなみにタクシー料金だが、向こうの言い値は100元。空港からホテルまで乗ったときはメーターで62元だったし、ほとんど車が走っていない早朝であればメーターではなく割増料金というのも理解できるので、その値段でいいといったら運転手は大喜び。どうやら高い料金を吹っかけられたようだが、私自身はこの値段で納得していたので問題ない。

ウルムチでは西安までのチェックインしかできず、そこから先は西安で再度チェックインを行う必要がある。朝7時50分にウルムチを出発したが、実情と離れた北京時間を使用しているので、この時間でも薄暗い。

3時間で西安に到着。ここで福岡までのチェックインを行い、午後2時に西安を出発して4時すぎに上海に到着した。さすがに中国を横断していくのは時間がかかる。

この日3回目の飛行機に乗り、午後6時に上海を出発。夜9時に福岡空港に帰着した。


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