アルメニア旅行記(アグダム、ティグラナケルト、ガンザサール)

ナゴルノ・カラバフ滞在2日目。この日はノープロブレム親父の車をチャーターし、アグダム(遠望のみ)、ティグラナケルト、ガンザサールを回ることにしていた。

当初の予定ではこの3ヶ所だったのだが、途中で運転を変わったノープロブレム親父の息子の勧めでアマラスという村も訪れ、貴重な体験をすることになった。


朝6時半に起床。前日は天候が一変し、いい天気。これなら長距離のドライブも楽しめそう。

7時半にノープロブレム親父が迎えに来たので、電気が使えなくなっていることを伝えると、今日のうちに直してくれるということだった。いったんノープロブレム親父の家に行き、ここで白い車(奥に停まっている黒の普通車ではない)に乗って出発。

ステパナケルトを離れると、周囲にはきれいな景色が広がるようになる。地平線が見渡せる広々とした景色を眺めていると気分がいい。

遠くに見えるのは山というより丘陵地帯という感じ。この地域はそれほど標高は高くはないが(およそ1,000メートル地帯)森林に覆われてないので何だが高山地帯にいるような気分。

やがて「この辺りからアグダムが遠望できる」という場所に着いた。

車を下り、遠くを眺めてみたものの、ちょっと遠すぎてよくわからない。

この時間は逆光気味ということもあるので、いったんティグラナケルトへ行くことにした。車に乗り込んで出発。

遠くに戦車が見える場所があり、車を停めて写真を撮った。おそらくナゴルノ・カラバフ紛争当時に使われていた戦車だと思う。周囲ののどかな景色と、放置された戦車という対照的な景色が興味深い。

移動中、遠くに教会か修道院のような建物が見えた。

アップで見ると、見事に崖の端に建っている。この日に訪れる予定のガンザサール修道院の遠望かとも思ったが、さすがに場所が違うと思う。行ってみたい気もするが、今回は時間がない。

何かの廃墟らしい場所では、車を下りて写真を撮った。ノープロブレム親父は英語がほとんど話せないので詳しいことはわからないが、ここは遺跡なのかもしれない。

もっとも、周囲にはきれいな黄色い花(菜の花ではないと思う)が咲き乱れているので、何の廃墟かはわからなくても写真を撮りながら歩いていると楽しい。

やがてティグラナケルトの町が見えてきた。

町のはずれに、落ちた橋があった。おそらく、紛争のときに破壊されたものだと思う。ここでも紛争の跡を目撃(もっとも、詳しい説明は聞いていないので、単に老朽化により落ちただけだったらすみません)。

ティグラナケルトは、町というよりは小さな村という感じの集落だった。車を下り、この小さな店に入ってパンとジュースを購入。

ノープロブレム親父がなぜここへ立ち寄ることを提案したのかはよくわからなかったが、アグダム遠望地点のついでに休憩と朝食の調達をしたかったのかもしれない。

15分ほどのティグラナケルト滞在を終え、再びアグダム遠望地点へ戻る。先ほどとは少し離れた地点に車を停め、土手の上に上がって周囲を眺めてみた。花が咲き乱れていて、景色は実にきれい。

この時間になると、アグダムがより見えやすくなった。遠くに廃墟らしい建物が見える。

アグダムはもともとナゴルノ・カラバフ自治州に属していた町ではなく、アゼルバイジャン人が居住していた人口5万人ほどの町。アルメニアに占領される前はパサジュという市場が有名で賑わっていた町だったという。

しかしながら自治州の境界付近の町だったため紛争のときは最前線となり、アルメニアによって「ついでに」占領されてしまった。民族浄化の結果、今は完全に無人の廃墟になっていて、ナゴルノ・カラバフ軍が駐留しているという。もともと住んでいた人たちはアゼルバイジャン本国で難民として生活しているそうだが、しかし5万人規模の町が廃墟になるというのが驚き。

ネット上の旅行記を見るとアグダムの町中まで入ってきた人もいるようだが、立入り禁止地域なので警察や軍の兵士に見つかると尋問されるらしい。廃墟になった町にも興味はあるものの、やはりリスクが高いことはやるべきではないと思う。今回はアグダムを遠望できただけで満足。

2020年に発生したナゴルノ・カラバフ紛争の結果、アグダム地域はアゼルバイジャンに返還されています。廃墟は復元されて占領前と同じく賑わいのある町に戻るはずです。いつか、アゼルバイジャンの町になったアグダムにも行ってみたいと考えています。


アグダムを遠望できるエリアを後にして、幹線道路をステパナケルトのほうに戻る。途中、ノープロブレム親父が道端に立っていた女性2人を車に乗せたが、これはヒッチハイクのようなもので、ナゴルノ・カラバフではよく見られる光景らしい。

次の目的地はガンザサールだが、そちらへ向かう道路と幹線道路が交わる三叉路で車が停まり、ここで女性2人は下りていった。このままガンザサールへ向かうのかと思ったら、ノープロブレム親父はここで車を乗り換えてほしいと言う。ここからは息子が運転する車でガンザサールへ向かい、自分はステパナケルトへ戻るということだった。こちらは特に問題ないが、しかし英語はほとんど話せないというのに単語をいくつか並べるだけでこれだけの意図を伝えるのだから、ノープロブレム親父の能力は高い。

息子が運転する車は、この日の朝に自宅で見た黒の普通車だった。車のグレードが上がり、ここからガンザサールまでの移動は快適そのもの。スピードが速すぎて車窓風景はあまり撮れなかったが、景色はきれい。

ときどき山の中に集落が現れるが、どれも通過していく。しかし車窓風景は本当に素晴らしい。

道路を牛が横断していることもあった。のどかでいい雰囲気。

ガンザサールまでは意外と距離があり、三叉路から30分ほどで修道院の麓の村に到着した。この町は紛争のときには大きな被害は受けなかったそうで、小学校や幼稚園を眺めることができた。

ここで女性1人がヒッチハイクの要領で車に乗ってきて、山道を上がって修道院へ。ようやくガンザサール修道院に到着した。車を下り、修道院へ。

ほぼ同じ時間に女の子を連れた若い母親が到着し、2人に続いて中に入る。

この修道院が建設されたのは13世紀だそうで、イメージ通りの古そうな建物になっている。明らかに保存状態がよく、紛争で被害を受けなかったのは嬉しい。こういう古い建物は好き。

そして、この修道院は丘の上にあるので、ここからの眺めはそれはそれは素晴らしい。この景色はいつまでも見ていられる。

麓の集落のアップ。

しばらく景色を楽しんだ後、修道院の中へ。

外から差し込む光が幻想的。特に信仰心のない人間でも、こういう場所に来ると心が落ち着く。時折やってくる来訪者が真剣に祈っているので、邪魔にならないように歩き回ってみた。

ここではノープロブレム親父の息子も真面目に祈っていたので、ロウソク越しに後姿を撮ってみた。アルメニアでは若者の多くも敬虔なカトリック教徒らしく、こういうところは宗教にこだわりがない日本とは違う。

修道院の建物を出て、周辺を散策。敷地内はきれいに整備されていて、歩いていると気分がいい。地元の人に大切にされている修道院ということがよくわかる。

先ほどの女の子と母親が景色を眺めていたので、許可を得てから写真を撮ってみた。評判どおり、アルメニアは美人が多い。

麓の集落を見下ろす方向とは反対側の斜面を見ると、墓が並んでいた。

また、修道院の隣には新しい建物が建設中だった。許可を取ってから中に入り、作業中の風景を撮ってみた。修道院の事務所か、または宿泊施設になるのかもしれない。

40分ほどのガンザサール修道院滞在を終え、これで帰ることにした。ここは修道院の建物だけでなくビュースポットとしても素晴らしい場所だったので、いつかまた来たいものだが、はたしてその機会はあるだろうか。もし再訪できたら、そのときは隣の建物も完成しているはず。

名残惜しかったが、車に乗り麓の村へ。帰りは修道院の関係者がヒッチハイクとして乗ってきていた。

その人は麓に着くと車を下りていったので、こちらも集落を歩いてみたいと思い、少し待っていてもらうことにした。最初に目に付いたのがこちら。

川の対岸にあるステージを見下ろすように観客席が作られている。どういう舞台が行われるのかはわからないが、かなり見やすそう。あと、向こうの建物が船をモチーフにしているところも面白い。

村自体はのどかな感じ。

丘の上にガンザサール修道院が遠望できる。おそらく国の英雄らしい人の像と一緒に写真を撮ってみた。この人が誰なのかはわからない。

これでガンザサール訪問を終え、ステパナケルト方面へ戻ることにした。修道院はもちろんだが、そこからの眺めと麓の村の雰囲気も実によかった。ナゴルノ・カラバフを訪れる機会があれば、ぜひともガンザサールへ行ってみてほしい。今回のように車をチャーターするのがお勧め。


ステパナケルト郊外まで戻ってくると、ここにナゴルノ・カラバフのシンボルともいえる建造物がある。それがナゴルノ・カラバフのビザにもデザインされている「我らの山」像で、今回ぜひとも見たい場所だった。特にリクエストはしていなかったが、さすがに自称独立国のシンボルだけあって、何も言わなくても立ち寄ってくれた。

駐車場に車を停め、歩いて丘の上へ。

これがその「我らの山」像。モチーフは老夫婦らしいが、なんとなくモアイのようにも見える。ちょっとした珍物件。

周囲を一回りしてみた。丘の上に建っているので、周辺の眺めはきれい。

地元の人たちもときどきやってきて、記念写真を撮っている。その様子を見ても、自称独立国のシンボルとして大切にされていることがわかる。

ナゴルノ・カラバフのシンボルを見られて満足。ここは変わった建造物が好きな人にもお勧め。

当初はこれでステパナケルトに戻るつもりだったが、予定を変えてアマラスという村に向かうことになった。続きは次のページで。