2泊したステパナケルトを離れ、ナゴルノ・カラバフ共和国を出国してアルメニアのエレバンに戻る日になった。
国際的には未承認国のナゴルノ・カラバフだが、特に危険そうな感じはなく治安もまったく問題なかった。アマラスという村で非常に楽しい経験もできたし、ここは自分にとってかなり印象に残る国になった。
朝7時に起床。前日の夜に会った日本人男性はすでに出発した後らしく、隣の部屋には誰もいなかった。こんなに慌しく移動するのはもったいない気もするが、旅のスタイルは人それぞれ。
8時前にノープロブレム親父がやってきて、こちらも男性が朝早く出発していったことに驚いていたようだった。私のほうは急ぐ必要はないので、ノープロブレム親父の運転する車に乗り、バスターミナルへ。
エレバンまでのチケットは、ノープロブレム親父が窓口で買ってきてくれた。4日前にエレバンからゴリスへ移動したときは5,000ドラムだったし、このときも親父が5,000ドラムと言うので何の疑問も抱かずに払った。
ノープロブレム親父はもっと日本人客を呼び込みたいらしく、別れ際に「自分のゲストハウスを日本で宣伝しておいてくれ」と頼まれた。正直言ってそれほど部屋やシャワー室はきれいではないし、そもそもステパナケルトへ来る日本人旅行者が今後増えるとも思えないが、しかし話のネタには面白いので泊まってみることをお勧めする。それに、英語はいくつかの単語しか話せないにもかかわらず会話を成り立たせる能力はすごいので、この人に会ってみる価値は十分にある。
今回は旅行者が一般的に訪れるシューシやガンザサールだけでなくアマラスで楽しい経験もさせてもらったし、この人には感謝している。最後、今回の滞在の礼を言い、握手をしてからバスに乗り込んだ。
帰りはミニバスではなく通常のバス。車内はほぼ満員で、8時50分に出発。
ステパナケルトを出発してから、バスのチケットをよく見てみると4,500ドラムと書かれていることに気付いた。どうやら5,000ドラムはミニバスの値段で、通常のバスは少し安かったらしい。ノープロブレム親父に500ドラムをくすねられてしまったみたいだが、それもご愛嬌という感じで、怒る気持ちはまったく起きなかった。500ドラムは窓口でチケットを買ってもらった手数料と考えればいい。
ステパナケルトからは、ナゴルノ・カラバフのきれいな車窓風景を眺めながら国境へ。再び、この景色を見ることはあるだろうか。
10時20分に国境に到着。地元の人たちはフリーパスだが、外国人は出国手続きを行う必要がある。入国時に受け取った入国カードの紙切れを渡し、ナゴルノ・カラバフ出国とアルメニア入国はすぐに終了。
こちらが手続きを行う建物。
ここはトイレ休憩も兼ねているようで、他の乗客もバスを下りているので周辺を歩いてみた。アルメニアの国旗に三角形の切れ込みが入っているのがナゴルノ・カラバフの国旗。近くには小川も流れていて、のどかな雰囲気。
全員がバスに戻ったところで出発。またこの国へ来たいものだが、その機会はないかもしれない。
(2024年1月追記)
ナゴルノ・カラバフ共和国は2024年1月1日で消滅し、この地域はアゼルバイジャンが全域を奪還しています。
今となっては1990年代の第一次紛争でアルメニアが圧勝したのが不思議な気がしますが、このとき旧自治州以外の占領地を変換する代わりに独立を認めさせるような和平交渉を行っていれば、現状は違ったものになっていたかもしれません。
有利な状況だったときに交渉をまとめなかったため、最終的にすべてを失うという最悪の結果になってしまいました。今は、この旅行のときに出会った人たちが無事に暮らしていることを願っています。
アルメニアに入り、広々とした車窓風景を眺めながら移動。この地域の風景は本当にきれい。
やがてゴリスの町に到着した。この町を出発したのはわずか2日前だが、なんだか懐かしい。ここでは数人の乗客が下りていった。
ゴリスを出発し、あとはエレバンまでひたすら走る。広々とした車窓風景が続くが、次第に雪山が近づいてくる。
標高が高くなると、バスの車内はちょっと寒くなった。エレバンから移動したときは曇り空だったので景色も寒々としていたが、この日は天気がいいので雪山の眺めもコントラストがはっきりしていてきれい。
途中で羊の群れに遭遇した。道路を埋め尽くしていてバスが通れないので、羊が通り過ぎるまで待機。こういう景色を見るのも楽しい。
エレバンから移動したときに立ち寄ったのと同じ場所で、午後1時にトイレ休憩。ここは特にドライブインのようなところではなく、道路沿いに店がいくつか並んでいるだけ。乗っているバスの写真を撮ってみた。
休憩場所を出発し、あとはエレバンまでノンストップで走る。山岳地帯を抜け、標高が下がってくるとバスの車内も暖かくなってきた。
やがて、遠くにアララト山が見えてきた。この山を見るのは4日ぶり。
この日は天気がいいので大アララト山と小アララト山がはっきり見える。これだけきれいに見えるのは珍しいのか、乗客にも写真を撮っている人は多かった。
特に気に入っている写真を大きなサイズで載せておく。
アララト山はアルメニア人にとって特別な山だが、現在はトルコ領。乗客たちはちょっと複雑な気持ちで眺めているのかもしれないが、私はトルコも好きな旅行先なので、どちらも立場にも立たない。
ステパナケルトを出発してから約7時間半、午後4時15分にエレバンのバスターミナルに到着した。長い移動だったが、景色がきれいなので特に疲れなかった。4日ぶりなので、このバスターミナルの三角形の建物も懐かしい。
エレバンでのホテルは予約してあるので、近くの露店でパンとアイスコーヒー(400ドラム)を買って少し休んでからタクシーで移動。ちょっと高級な Republica Hotel Yerevan というホテルなので、運転手にはすぐに通じた。タクシー料金は1,000ドラム。
名前からわかる通り、ホテルは共和国広場の近くにある。チェックインし、部屋に移動するとかなり快適そうな感じ。さすが1泊1万4千円ほどのホテルだけのことはある。
部屋からは、カフェとホテル前の大通りが見える。
そして、カフェにものすごい人を発見。
志茂田景樹かよ!
もっとも、今となっては志茂田景樹といっても知らない人も多いかもしれない。かつて、こういう派手な格好をした人が頻繁にテレビに出ていたんですよ。こんな外見でタレントじゃなくて作家なんですが。
アルメニアの志茂田景樹を発見した後、しばらく部屋で休憩。
午後5時半過ぎに外出し、最初に行ってみたのはカスカード。エレバン到着初日にも訪れているので、6日ぶりの再訪になる。ここは当サイトのアルメニア到着初日のページで紹介しているので、ここでは写真は少なめにしておく。
共和国広場駅から地下鉄に乗り、マリシャル・バクラシャン駅で下りてカスカードへ。階段状のモニュメントなのでエレバン市街が一望できる。6日前は昼間だったので、夕方の眺めはちょっと雰囲気が違う。
遠くにアララト山が見える。6日前は空気が霞んでいたので、そのときよりはきれい。
小アララト山と大アララト山のアップ。小アララト山はきれいな円錐形の山で、まるで富士山のような感じ。大アララト山(標高5,137メートル)は、さすがに登山は難しそうだがインターネットで調べたところベースキャンプまでのトレッキングならできそうな感じがする。いつかやってみたいものだが、その機会はあるだろうか。
カスカードでは、こいつとも再会。この間抜けな笑い顔が何とも。しかし6日前は建物の中で見たはずなんだが、この日は屋外にいる。ときどき場所を変えるのか、6日前はこの屋外のオブジェに気付かなかったのか、ちょっとわからない。
そして、水の中に顔が半分だけ沈んでいる人。こちらも意味がわからないが、6日前は水がなかったので、この日はより異様さが増している。
カスカード再訪を終え、しばらく周辺を散策。生活臭のあるアパートや、きれいな公園を見ながら歩くのは楽しい。
地下鉄で共和国広場駅へ戻り、共和国広場の近くにあった安そうなレストランで夕食にした。注文したのはトマトとキュウリのサラダ、ポークバーベキュー、大ジョッキに入ったヨーグルトスープで、値段は全部で3,630ドラム。
レストランを出ると、すっかり暗くなっていた。5日ぶりに共和国広場の噴水ショーを見て楽しむ。
人だかりができていたので、近寄ってみたら警察が取り締まりをやっているようだった。誰かが捕まったから人が集まっていたのか、その辺りはよくわからなかった。
その後も共和国広場周辺を散策し、夜9時にホテルに戻った。この日は0時半に就寝。
いよいよアルメニア滞在最終日になった。朝8時に起床し、朝食を終えて10時半にチェックアウト。飛行機の出発時刻が午後2時50分なので、フロントで荷物を預かってもらい最後の散策に出かけることにした。
エレバンには極真空手道場もあるらしい。
そんなに時間があるわけではないので、共和国広場周辺だけを散策することにして、バザールを再訪してみた。
旅行者向けの土産物店もあるが、一方で「誰が買うんだろう」というようながらくたを売っている店もある。商品を見ながら歩いていると楽しい。
旧ソ連諸国の中ではわりと親ロシア的な国だからか、鎌とハンマーのマークも見かけた。
こちらのチェスのセットはかなり立派。いくらくらいするんだろう。
民族衣装を着てハチミツを売っている女性もいた。
こちらは絨毯のコーナー。持ち帰るのが大変なので旅行者はなかなか買えないが、しかし家にこういうものがあると豪華な雰囲気が出せると思う。個人的に気に入ったのがアルメニアの地図がデザインされた絨毯で、できれば買って持ち帰りたかったが諦めた。
絵画のコーナー。気になったのがキリストの絵の上にあるおっさんの絵で、このおっさんはここだけでなくあちこちの店で見かけた(しかも、どの絵も同じ表情)。なのでアルメニアでは有名な人なのかもしれないが、いったい誰なんだろう。それに、こういう絵を飾ってあるリビングや寝室というのも、何だか異様な雰囲気になりそうな気がする。
バザールでは土産物としてざくろをモチーフにした木製の爪楊枝入れとTシャツを買ってみた。爪楊枝入れば今でも自宅で使っている。こういう生活用品の小物を外国土産で揃えていくのも楽しい。
バザールを出て、公園付近をしばらく散策。
そろそろホテルに戻ろうとしていると、デモの行列に遭遇した。
みんなアルメニアの国旗を持っているし、おそらくは政治的なデモだったと思う。過激な集団ではなさそうなので、ちょっと躊躇したが近くで写真を撮ってみた。
デモの最後尾には警官が歩いていた。「お疲れ様です」と声を掛けながら写真撮影。
デモ隊と別れ、いったんホテルに戻って荷物を受け取ってから空港へ移動することにした。ホテル前からタクシーに乗り、ズヴァルトノッツ空港へ。
アルメニア到着時に空港からホテルへ移動するときはひと騒動あったが、今回は20分ほどでスムーズに空港に到着した。市街と空港間のタクシー料金の相場は5,000ドラムと調べていたので、その金額を渡したところ運転手は予想外の大喜び。考えてみたら、アルメニア到着時は深夜だったので、旅行前に調べていたのは深夜料金だった。昼間だったら3,000ドラム程度でよかったらしい。
というわけで高い値段を払ってしまったことになるが、この時点でアルメニアという国が好きになっていたので後悔はしていない。ターミナルに入り、アエロフロートのカウンターでチェックイン。モスクワ~ソウル~福岡という経路で帰国するが、ここではソウルまでしかチェックインできず、ソウル~福岡はいったん韓国に入国してからチェックインを行ってほしいということだった。荷物もソウルで受け取ってから再度預けることになるが、こちらとしては別に問題ない。
アルメニアを出国し、アエロフロート機を眺めながら出発まで待機。再びこの国に来ることはあるだろうか。
定刻の午後2時50分にエレバンを出発。午後5時にモスクワのシェレメチェボ空港に到着した際、着陸時に機内でいっせいに拍手が起きた。こういうところは旧ソ連諸国らしい。
ここでの乗り継ぎ時間は4時間ほど。トランジットエリアのカフェで時間をつぶし、9時にモスクワを出発。翌日の午前11時過ぎにソウルに到着した。
いったん韓国に入国し、荷物を受け取ってからアシアナ航空のカウンターでチェックインを行って、すぐに出国した。ソウルでは特にすることもなく、午後2時に出発。午後3時過ぎに福岡空港に到着した。
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