インド旅行記(レー~タンツェ~パンゴン・ツォ)

レー滞在の実質最終日。この日はパンゴン・ツォという湖へ行くことにしていた。森林限界を越えた荒涼とした景色の中に突然現れる湖で、今回どうしても行ってみたい場所だった。

この湖は標高4,000メートル地帯にあり、さらに途中で標高5,360メートルのチャンラ峠を越えていく必要がある。レー到着直後ではなく数日かけて高地に慣れてからのほうがいいということなので、最終日に訪れてみた。


前日と同様に5時半に起床。6時に運転手が迎えに来て、パンゴン・ツォに向かって出発した。最初は快調に走っていたが、15分後に集落で停車。ここは運転手の家だそうで、これから運転手の妹たちが乗ってくるという。雪山をバックにしたタルチョを眺めながら車内で待機。

やがて妹さん2人が乗ってきた。運転手の話によると、妹さんたちもパンゴン・ツォへ行ってみたいので便乗させてほしいということだった。レーに住んでいる人でも、パンゴン・ツォへはなかなか行く機会はないらしい。こちらは別に構わないので、ここからは車内は4人になった。

レー郊外でいったん停車し、朝食のために休憩。ところが、運転手が案内してくれた地元民のための食堂は、まだ食べ物の準備ができていなかった。もっとも、私はまだ重いものを食べるほど腸の調子が回復していないので、これは特に問題ない。

代わりにその食堂でチャイを飲むことにしたが、その紙コップに一同爆笑。

「NICECAFE」

ヒマラヤの奥地だから本家にはバレないと思ったのか。しかしレーでこんなに笑えるとは思わなかった。これが今回のインド旅行で一番面白かった物件。

ナイスカフェ食堂を後にして、山奥に向かって進む。

前日に訪れたチェムレ・ゴンパを遠くに見ながら先へ進むと、次第に山道になってきた。景色は素晴らしいが、容赦なく高度が上がっていくのに加えて砂利道で振動も激しいので、マナリからレーへのハイウェイを思い出してきた。

しかし縁石もないし、うっかり落ちたら命はなさそうな気がする。トラックとすれ違うときなどはひやひやもの。

やがて周囲は雪景色になってきた。すでに標高は5,000メートルを越え、最高地点のチャンラ峠が近づいてきている。

レーから2時間で、標高5,360メートルのチャンラ峠に到着。本当に、よくこんなところまで来たものだ。こんな地の果てまでやってきた自分に感動。

車を下りて、周辺を散策することにした。ただし、私の場合は3日前に標高5,300メートルのタグランラ峠でうっかり小走りになってしまい、しばらく大変な思いをするという経験をしているので、ここでは深呼吸しながら意識してゆっくりと歩くようにした。

せっかくなので、定番のスポットで記念撮影。景色から分かる通りかなり寒いので、レーで買ったジャンパーが役に立った。

9月だというのに周囲は完全な雪景色。青空と雪山のコントラストが見事。

ここにはこういうモニュメントもある。ヒマラヤの奥地らしいデザイン。

モニュメントの先にタルチョに覆われた小さな祠があり、入ってみた。ただし、高地にはある程度慣れているつもりだったが、入口の階段を上がっているときに軽い頭痛が起きた。油断してはいけないので、さらに深く呼吸しながらゆっくりと先へ進む。最奥には小さな神像が安置されていた。

祠を出て、タルチョ越しにヒマラヤの景色を眺めてみた。

ここには小さなカフェもある。こんな過酷なところでも人間が活動しているのが驚き。おそらく、ここは世界でもっとも高いところにあるカフェではないかと思う。

中に入ると、妹さんたちがヌードルスープを食べていた。壁に貼ってある写真がパンゴン・ツォで、これからこの湖を見に行くことになる。私のほうはミルクティを飲んでペットボトルの水を買っておいた(合計70ルピー)。

カフェの前には犬が何匹もうろついていた。こんな空気の薄い過酷なところでも、自由に走り回っている姿に感動。

ここは車が通れる峠としては世界で3番目の高地だそう(ただし、チベットで十分な調査が行えないこともあり、順位には諸説あるらしい)。レー近郊には、ここより標高が高いカルドゥンラという峠もあるが、しかし今後行く機会があるかどうかは不明。おそらく、ここが自分が生涯で訪れた最高地点になるだろう。自分にとって、ちょっと特別な場所になった。


20分ほどのチャンラ峠滞在を終え、パンゴン・ツォに向けて出発。ここからは下りが続く。

しかし下を見ると車が落ちていたりする。やはり、ときどき事故が起きているんだろう。

標高が下がってくると(といっても日本では体験できない4,000メートル地帯)周囲から雪は消えてきた。途中、長い毛と角が特徴的なヒマラヤ・ヤクの群れが見えた。

しかし、かなり頻繁にインド軍のトラックとすれ違う。インドにとって、ここが戦略的に重要な地域ということがよくわかる。

午前10時、タンツェという集落で停車。外国人がここから先へ進むためにはインナーラインパーミットというものが必要で、ここにチェックポイントがある。運転手がパスポートを持って出かけている間、近くにあった小さな食堂のトイレを借りておいた(10ルピー)。マナリからレーへ移動した日と比べるとましになってきたが、まだ腸の調子は万全ではない。

タンツェに10分ほど停車し、出発。

チェックポイントから10分ほど走ったところで、運転手が横道に入っていた。ここにゴンパがあるそうで、立ち寄ることになった。レー近郊のゴンパとは違い、ここを訪れたことのある人は少ないはず。

車を下り、長い階段を上がる。

上まで登るとゴンパの建物があった。前日のゴンパめぐりで見た建物と比べると小さいが、しかし壁画などは見事。どんな小さな集落でもチベット仏教がしっかりと信仰されていることが実感できる。

ここからの眺めもきれい。ただ、写真では実際のスケール感が伝わらないのが残念。

運転手たちと一緒に建物に入り、参拝した。くすんだ色合いと、なんとなく淀んだような空気が心地いい。

パンゴン・ツォへ向かう途中にゴンパがあるということはまったく知らなかったので、ここへ連れてきてくれた運転手には感謝している。もちろん、運転手とその妹さんたちにとっては自分が参拝したいから立ち寄ったのだろうが、私としてもちょっと貴重な体験になった。


タンツェ・ゴンパを出発して、峡谷の中を先へ進む。

やがて湿地帯が見えてきた。ここで運転手が車を停めて「マーモットがいるけど、見る?」と聞いてきた。このときはマーモットというのが何か知らなかったが、車を出てすぐにわかった。いやあ、これはかわいい。

帰国後に調べたところ、マーモットはリス科の動物で「主にアルプス山脈、カルパチア山脈、タトラ山脈、ピレネー山脈、ロッキー山脈、シェラネバダ山脈、ヒマラヤ山脈などの山岳地帯に生息している」「一般に巣穴の中で生活しており、冬季は冬眠する。大部分のマーモットは社会性の高度に発達した動物で、危険が迫るとホイッスルのような警戒音でお互いに知らせ合う」「食性は主に草食性である。草、果実、コケ、木の根、花などを食する」だそう(wikipedia から抜粋)。

日本ではあまりなじみのない動物なので、知らない人も多いと思う。珍しい動物が見られて嬉しかった。

マーモットの湿原を過ぎて20分ほど走ったところで、運転手が車を停め「ここが最初にパンゴン・ツォが見える場所」と教えてくれた。遠くに見える青い部分が湖で、予想以上の青さに感動。

パンゴン・ツォまでもう少しだが、長くなったので湖については次のページで。