モルドバ&ルーマニア旅行記(ティラスポリ / 前編)

モルドバ滞在2日目。この日は今回の旅行で一番の目的といえる沿ドニエストル共和国に潜入する日になる。

できれば現地で1泊したいものだが、そうすると入国24時間以内にイミグレーションオフィスで外国人登録が必要だそうで、いろいろと面倒なことになりそうなので大人しく日帰りで行くことにした。


朝8時に起床。朝食後、9時半にホテルを出て、歩いてバスターミナルへ。キシナウにはいくつかバスターミナルがあり、沿ドニエストル共和国の首都ティラスポリ行きは中央バスターミナル (Gara Centrala Chisinau) から出発するというのは事前に調べていた。

中央バスターミナルは市場の中にあるので、まずはこちらのゲートをくぐって雑然とした雰囲気の市場へ。

露店がたくさん並んでいて、歩いていると面白い。しかしながら、あまりゆっくりとはしていられないのでバスターミナルへ急ぐ。

バスターミナルはわりと広く、建物の中は閑散としていた。いくつか窓口が並んでいるが、しかしながらティラスポリ行きのチケットが買えるのはここではない。

ティラスポリ行きのミニバスのチケットは、屋外にあるこちらのブースで購入できる。屋外というのは事前に調べていたから迷わずにたどり着けたが、知らなかったら建物内を探し回ったかもしれない。

ティラスポリまでの料金は36.5レイ(約275円)。無事にチケットが購入でき、一安心。

こちらがティラスポリ行きのミニバスで「満員になったら出発する」というシステムではなく定時運行になっていた。これなら旅行者も計画を立てやすい。10時15分にキシナウを出発。

車内はほぼ満員。しかし、モルドバからすると行き先は「自国から勝手に独立宣言して、モルドバの実効支配が及んでいない地域」になるのに、こうやって市民が普通に行き来できるのが不思議。まあ、モルドバからするとあくまで自国の一部という主張なのかもしれない。

平原の国なので、車窓には風光明媚な景色が続く。

キシナウを出発してから約1時間、11時20分に沿ドニエストルとの「国境」に到着した。ここで外国人はバスを下り「入国審査」を行う必要がある。当然ながら写真撮影は禁止なので、ここの写真はない。

このバスに乗っていた外国人は3人(私の他にイタリア人夫婦が1組)で、それぞれ問題なくパスポートチェックを終えて小さな紙切れを渡された。これは「出国」の際に必要になるので、なくさないようにしないといけない。この「国境」では以前は外国人が賄賂を要求されるという出来事も起きていたらしいが、今は役人の風紀も改善されたそうで、そういう要求はまったくなかった。

10分ほどで再びミニバスに乗り、出発。すぐに実効支配の境界線を通過し、ここではロシア軍が警備を行っている。写真撮影は厳禁のエリアなので、もちろん写真はない。

沿ドニエストル共和国に入り、しばらく走ると町中に入った。最初のバスターミナルで数人の乗客が下りていったが、こちらは終点まで乗ることにしている。一応、ここは外務省の危険情報ではレベル1(注意喚起)が出されているが、写真からわかる通り雰囲気は平和そのもの。

沿ドニエストルに入って30分、ちょうど12時に終点のティラスポリ駅前に到着した。ミニバスを下り、よくこんなところまで来たもんだと思いながら駅を眺めてみた。もちろん、沿ドニエストルに入ったことのある日本人は決して少なくはないが、それでも自分が超マイナーな未承認国にいるということに感動する。

駅舎はかなり立派な建物になっていて、まずは駅の正面横にあった両替所でここの通貨ドニエストルルーブルを入手した。この通貨は「国外」では一切両替できないので、入手は最小限にしておく必要がある。ここでは20ユーロを両替したところ、渡されたのは394ルーブルだった。1ルーブルは7円弱ということになる。

駅に入り、せっかくなのでベンチに紙幣を置いて写真を撮ってみた。ここに来ないと入手できない通貨なので、かなり貴重だと思う。

駅はティラスポリの町外れにあり、中心部へは少し歩く必要がある。その前に、鉄道は結構好きなので駅の中を歩いてみた。駅構内はかなり広い。

近くにあった陸橋の上からの眺め。ここはキシナウとオデッサの途中にあるので、モルドバとウクライナを結ぶ夜行列車が通る駅だという。いつか、その列車に乗ってみたいものだが、はたして機会はあるだろうか。

駅のホームを歩いていると、貨車を1両だけ連結した機関車がやってきた。その前に人だかりができていたので、何だろうと思って近寄ってみた。

このときに見たのがどういう風景だったのかは、はっきりとはわからない。ただ、明らかに現代とは違う服装の人たちが貨車に乗っていて、ディレクターやカメラマン風の人たちが忙しそうに歩いていたので、間違いなく映画かテレビドラマの撮影だったと思う。偶然、こういう場面に遭遇できて幸運だった。

しばらく撮影を眺めていると、列車での移動シーンになったらしく列車はゆっくりと動き出した。ホームを走りながら撮影しているクルーを見送り、こちらは駅舎の中へ。壁には沿ドニエストルの地図が貼ってあり、これを見ると名前の通りドニエストル川に沿った細長い「国」ということがわかる。

駅を出て、続いて街の中心部へ歩いてみることにした。駅前の風景も、何となくソ連風。

駅前から続く大通りは緑も多くてきれい。月曜日の昼ということもあるのかもしれないが、人がいなくてのどかな雰囲気。

少し歩くと Kirov Park という公園があった。

中にはロシア正教の教会がある。中には入れなかったので、建物を一回りしてみた。

ここで初老の男性に話しかけられたが、もちろん言葉がまったく通じなかったので、しばらく意思の疎通を試みた後で別れた。ただ、外国人の来訪を歓迎してくれているという気持ちはわかったので、ちょっと沿ドニエストルの高感度がアップ。

公園を出て、街中が近づくとツーリストインフォメーションがあった。こういう場所があるとは知らなかったので早速入ってみた。

建物の中には女性スタッフが1人いて、帰りのキシナウへのバスの時刻、ティラスポリでのトロリーバスの料金などを教えてくれた。また、ティラスポリの地図も受け取ることができ、これが滞在中かなり役に立った。

いくつか土産物も置いてあって、せっかくなのでマグカップを買ってみた。この通り、デザインはソ連色丸出し。ここは今でもソ連の一部という気持ちらしい。値段は65ルーブル。

普段はこの時間はツーリストインフォメーションは閉まっていて、たまたま女性スタッフが用事があって立ち寄ったので開いていたらしい。ちょうどこの時間にここを通りかかったのは幸運だったようだ。

スタッフに礼を言ってからツーリストインフォメーションを出て、地図を見ながら街中を歩いてみた。ここに外務省の危険情報が出ているとは思えないほど、雰囲気は平和そのもの。

散策の途中、MAFIA という店で休憩してみた。マフィアとは物騒な名前だが、もちろんちゃんとしたカフェ。

注文したのはカフェラテとアイスクリームパイで、味はかなりうまい。

最初は休憩だけのつもりだったのだが、途中で気が変わり、せっかくなのでここで昼食にすることにした。追加で注文したのはヌードルスープとパン。なぜかアジア風の料理があったので、どんなものか注文してみた。

スープはほぼ醤油ラーメンという感じで、麺の上にチャーシューが乗っている。まさか沿ドニエストルに来てラーメンを食べることになるとは思わなかった。意外な感動。

外国人が来たことが珍しかったのか、食後に店からのサービスということでこういう飲み物とスナックを出してくれた。名前は忘れたが、飲んでみると結構強めのライム酒だった。

普段はあまり酒は飲まないが、このくらいの量なら問題ない。

これで食事を終え、女性店員に挨拶してから店を出た。値段は全部で112ルーブルで、これで800円以下なのだから日本人の感覚からすれば安いもの。なかなか雰囲気のいい店だったので、ティラスポリへ来る機会があればお勧め。

カフェを出て、歩いているとこういう建物があった。

手前がアブハジア共和国、向こう側が南オセチア共和国の国旗。この2ヶ国にナゴルノ・カラバフ共和国を加えた4ヶ国が相互に国家承認を行い、「未承認国同士、うまくやっていきましょう」と 共同体 を作っている。おそらく、ここはその共同体に関連した建物だったのだろう。ナゴルノ・カラバフはこの旅行の3年前に潜入したが、他の2ヶ国もいつか行ってみたい。

こちらは広場にあった騎馬像。この人は上のほうに載せている紙幣(1ルーブルと10ルーブル)に肖像画が使われているアレクサンドル・スヴォーロフ。ドニエストル建国の父らしい。

市民の憩いの場になっているようだが、足元に写っている人と比べても騎馬像の巨大さがわかると思う。

この広場の近くに、ティラスポリでどうしても見たかった建物がある。それがこの政府庁舎。

建物自体も威圧的だが、何といっても目立っているのはレーニン像。

いやあ、これがティラスポリで一番の目的だった物件なので、無事に見ることができて激しく感動した。レーニン本人だけでなく、マントが風でなびいている造形も見事。旧ソ連地域でも今ではレーニン像はほとんどが撤去されているという感じなので、これだけ堂々としているのは珍しいと思う。

目的のレーニン像を見ることができ、せっかくなので政府庁舎のほうにも近づいてみることにした。

しかしながら、上の写真の階段を上り始めたときに建物の中から役人が出てきて、厳しい表情で「それ以上近づくな!」と制止された。こういう地域では特に役人には逆らうべきではないので、こちらも慌てて退散。

本当は正面入口の上にあった鎌とハンマーのマークをアップで撮りたかったが、ここでは上の写真のアップを載せておく。

かなり長くなったので、続きは次のページで。