モルドバ&ルーマニア旅行記(キシナウ~ブカレスト)

3日間滞在したモルドバを離れ、国際夜行列車で隣国ルーマニアへ移動。

もっとも、この両国は歴史的に見ればかつてひとつの国だったし、どちらも民族的にはルーマニア人なのでそれほど違いはないらしい。ルーマニアの一部をソ連が奪い、ソ連崩壊後に独立したのがモルドバ。

モルドバはわずか3日間の滞在だったが、景色がきれいで治安もよく、旅行しやすい国だった。ヨーロッパ最貧国などと言われているものの、それはあくまで「ヨーロッパの中で」という話。見どころは少ないが、のどかな雰囲気が好きな人は旅行してみてほしい。


岩窟修道院があるオルヘイ・ヴェキからキシナウへ戻り、土産物を買ってからキシナウ駅へ。2日前の昼間に来た時も思ったが、発着する列車が少ないのに駅舎は不釣り合いなくらい立派。

やがてブカレスト行きの夜行列車が入線してきた。機関車が牽引するのではなく押される形で入線してきて、この位置で停止。

この車両が最後尾なのかと思って乗り込んだら、機関車が近づいてきた。こちら側に機関車を連結して先頭車になるらしい。

いったんホームに下りて、邪魔にならないように連結作業を見学してから機関車の写真を撮ってみた。無骨な感じと色合いが格好いい。

乗り込む前に、しばらく列車の周囲を歩いてみた。外国で鉄道(それも国際夜行列車)に乗るのは、なんだかワクワクする。考えてみれば、国際夜行列車で国境越えするのは1999年のサンクトペテルブルク~タリン以来、19年ぶり。

では列車内へ。車両はヨーロッパではよく見かけるコンパートメント方式で、通路に沿って部屋が並んでいる。1等車両を選んでいるので、定員は2人(2等車両は4人部屋)。

まだ出発まで時間があるので、駅構内にあった小さな店でパンと水とアイスクリームを買い、モルドバレイをできるだけ消費しておいた。この通貨は国外では両替できないので、余ったらもったいない。

やがて出発時間になり、ぴったり定刻の16時56分にドアが閉まって列車が動き出した。なお、もともとこの区間を利用する乗客は少ないのか、同じ部屋には誰も乗ってこなかった。終点のブカレストまで1人部屋になり、かなり快適。

出発直後の動画を載せておく。線路を上から見下ろした陸橋など、2日前なのになんだか懐かしい。

列車がキシナウを離れると、周囲は広々とした田園風景が広がるようになった。地平線まで広がる農地なんて日本ではまず見ることはできない。

車窓風景の動画を載せておく。

キシナウを出発してから2時間、ちょうど午後7時に国境のウンゲニ(Ungheni)駅に到着した。ここでモルドバの出国審査を受けることになる。

駅舎を眺めていると、モルドバの役人らしい一団がやってきた。旧共産圏では役人の権威は日本では考えられないくらい強いはずなので、問題が起きないように愛想よく対応することにする。

外を見ると、線路にこういうものがたくさん並んでいた。知っている人も多いと思うが、旧ソ連地域では線路の幅は広軌なので、標準軌のルーマニアに直接乗り入れることはできない。この駅で台車の交換が必要になり、その作業が行われる。

しかし、こういう車輪だけが並んでいる風景は今まで見たことがないので、かなり興味深い。もちろん線路の幅が違う地域を列車に乗ったまま通過するのは今回が初めて。

部屋で待機していると、車掌がやってきてパスポートを集めていった。乗客の出国手続きはまとめて行われるらしく、どうやらモルドバの役人と直接会う必要はなさそうだった。

やがて列車が動き出し、駅を離れて引き込み線へ移動。旅行前はいったいどういう手順で台車を交換するのだろうと思っていて、ここでの作業に興味津々だった。外をずっと見ていると、列車が1両ずつバラバラにされ、車両ごとに台車の交換が行われるようだった。

別の車両が隣の線路に留められていて、ジャッキで少しずつ持ち上げられていくのが見えた。なるほど、こうやって交換するのか。

それまで使われていた台車が外されて、ルーマニアで使う台車に交換されていく。しかし車体の下を次々と車輪が滑っていく風景はなかなか面白い。こんな場面はめったに見られないはず。

隣の車両の交換が終わると、今度はこちらの車両。目線が高くなり、写真からもジャッキアップされているのがわかるはず。

台車の交換が無事に終わると、車両が次第に下がっていく。これで列車はルーマニアを走れるようになった。

この後、各車両が元通りに連結され、列車は再びウンゲニ駅へ移動。ここで車掌からパスポートが返却された。駅に到着してからここまでの所要時間はちょうど1時間。台車の交換という珍しい光景を近くで見られたので、鉄道好きとしては満足。


すっかり暗くなった午後8時40分に列車が動き出した。できればモルドバとルーマニアの国境を見てみたかったが、この時間では何も見えず、いつの間にかルーマニアに入っていたようだった。

ウンゲニ駅を出発してから10分後、特に駅があるわけでもない場所で列車が止まった。真っ暗なので周囲に何があるのかわからないが、再び車掌がやってきてパスポートを集めていったので、ここでルーマニアの入国審査が行われるらしい。ルーマニア側の国境の町はヤシ(Iasi)ということは知っていたが、ヤシの駅ではなくこんな何もないところで入国審査とは意外な気がした。

30分ほどでパスポートが返却され、これで無事にルーマニアに入国した。それにしても、なかなか興味深い国境越えだった。線路の幅が違うから実際に作業する立場から見たら面倒なのだろうが、旅行者としては面白い。

パスポートの出入国印には下の通りレトロな機関車のイラストが入っていて、列車で国境を通過したことがよくわかる。いつかまた、この国境を通ってみたいものだが、はたしてその機会はあるだろうか。

パスポートが返却されてからしばらくして列車が動き出した。夜11時半、列車の音を聞きながら就寝。


朝5時半に起床。外を見るとまだ日の出前で、明るくなりかけている。

しばらくすると車掌がやってきて、まもなくブカレストに到着すると知らせてくれた。予定到着時刻は6時7分なので、ほぼスケジュール通りの運行になる。失礼ながら、このあたりの鉄道がこんなに時間に正確に運行されるとは考えていなかった。2014年にブルガリアで国内線に乗ったときは1時間半ほど遅れたし、今回も長距離路線なので当然遅れるだろうと考えていたので、かなり驚かされた。モルドバとルーマニアの国鉄にお詫びしたい。

午前6時5分、ルーマニアの首都ブカレストのノルド駅に到着。

キシナウから13時間乗ってきた列車を下り、駅を眺めてみた。早朝なので、ホームはやや閑散としている。

こちらがルーマニア国内を走ってきた機関車。当然、キシナウで列車に乗った時の機関車とは違っている。あと、この駅は頭端式ホームなので終着駅に着いたという雰囲気がいい。

プラットホームを歩いて駅構内へ。このノルド駅だが、旅行前はちょっと気になっていた。なぜかというと、ノルド駅で検索すると「物乞いが多くて非常に治安が悪い」「近づいてはいけないレベル」「雰囲気は最悪」などと散々なコメントが並んでいたため。もともとブカレスト自体があまり治安がよくなさそうな都市であり、そこのターミナル駅となればさらに危ない感じなのは十分に予想できる。このため、列車を下りた時は少し緊張していた。

というわけで注意しながら駅構内に入ったのだが、次第に気が抜けてきた。

どこが治安が悪いの?

普通に乗客たちが歩いているし、店もたくさん開いているし、危なそうな雰囲気はまったくない。ちょっと緊張していただけに、なんだか拍子抜け。

まずは駅構内にあった両替所でルーマニアの通貨レイを入手した。100ユーロを両替したところ受け取ったのは448.5レイで、目安としては1レイが26円というところだった。ダメもとで少し残っていたモルドバレイが両替できないか聞いたことろ、やはり無理だった。モルドバレイはできるだけモルドバで使い切りましょう。

それからパン屋でパン(1レイ)を買い、自動販売機で紙コップのコーヒー(2レイ)を買ってベンチで朝食。このパンは焼きたてでゴマの風味が香ばしく、すごく美味しかった。食感はトルコのシミットのような感じ。

駅構内にはコカ・コーラの大きなオブジェやマクドナルドもある。かつての共産主義時代のルーマニアでは、コカ・コーラやマクドナルドといえば西側世界の象徴だったはず。

もしかしたら安全そうなのは駅構内だけで、外には別世界が広がっているのかもしれない。そう思って外に出てみたが、こちらも拍子抜け。物乞いなんて1人も見かけず、駅前には噴水もあって明るい雰囲気。

ただし、これは早朝だからかもしれない。駅の周囲を見渡すとこういう感じで、夜になったら雰囲気が変わるような気もする。暗くなってからノルド駅に近づく際は注意が必要かも。

駅の周辺を歩いていると、こういう店があった。なんだか東欧らしい店という感じがしたが、中には入っていない。

駅前に戻り、噴水越しに駅舎の写真を撮ってみた。この写真だけ見たら、ここがネット上では「近づいてはいけない駅」と呼ばれていることが信じられないはず。あれだけ注意喚起されていた物乞いはどこにいるんだろう。

この日の目的地はシナイアなので、そろそろ移動することにした。駅周辺の散策を終えて駅に入り、チケット売り場を探すとシナイア方面はこちらのエリアだった。

ちなみに Sinaia という町は日本では「シナイア」と呼ばれることが多いが、実際の発音は「シナヤ」に近い。そのことは知っていたので、窓口で「シナヤ」というとすぐに通じた。8時10分発の列車で、特に1等に乗る必要もないので2等車両を選び、料金は39.5レイ。

ホームに行くと、列車はすでに入線していた。

指定席なので席を探して坐り、時間通りの8時10分に出発。学校のイベントなのか、同じ車両内は中学生くらいの生徒たちが大勢乗っていて賑やかな雰囲気だった。ブカレストからシナイアまでの所要時間は1時間半ほど。

シナイア到着後については次のページで。