マダガスカル旅行記(モロンベ / アンドンビリー)

朝7時半に起床。モロンベ滞在2日目は町から北へ30キロほどのところにあるバオバブ森林地帯へ行き、各種の巨大バオバブを見ることにしていた。前日の夜、無事に車をチャーターできたため、奇妙な形をしたバオバブをたくさん見ることができた。


朝食の前に、いったんホテルを出て町中にある銀行へ行ってみた。この時点で手持ちのアリアリ紙幣が少なくなっていて両替が必要だったためだが、少し不安に思っていることがあった。前日、ホテルのスタッフに両替ができるかどうか聞いたところ(言葉が通じないので、ほとんどジェスチャーのみだったが)、この町には両替ができるところはないということだった。

小さな町なので仕方ないとも思ったが、しかしながら夕方に散策しているときに “BANK OF AFRICA” というわりと立派な建物の銀行を見つけていた。すでに夕方なので閉まっていたが、翌日の朝なら両替ができるかもしれない。そう思ってホテルのスタッフに「銀行があった」と伝えたのだが「その銀行では両替できないはず」と言う。(もちろんフランス語はまったくわからないので、雰囲気でそう察しただけ)

両替できないはずがないと思うのだが、スタッフは何度も「モロンダバかチュレアールまで行かないとできない」と繰り返している。そこで、夜になってから例の日本語ガイドさんに聞いてみたところ「両替できないはずがない。当然できるはず」ということだった。この点でスタッフとガイドさんが少し口論になっていたので、前日は「では、明日の朝に試してみます」と言って別れていた。

というわけで銀行がオープンする8時に行ってみたところ、まったく問題なく300ユーロを両替することができた。少し不安に思っていたぶん、なんだか拍子抜けという感じだったが、ともかくも無事にアリアリを入手することができた。

ホテルに戻り、ガイドさんに会ったので「問題なく両替できました」と伝えたところ「でしょう? できるはずですよ」と言ってスタッフに説明していた。スタッフも苦笑していたが、まあこの町では外国人自体が少ないからスタッフも両替する人など見たことがなかったのかもしれない。


フロントの横で朝食を取っていると、巨木ツアーの人たちがやってきた。挨拶をしてから少し話すと、この日の目的地は私と同じく北部のバオバブ森林地帯ということだった。私より30分ほど早く出発するそうだが、おそらく現地で何度も出会うことになると思われる。

出発の準備をして部屋で待っていると、やがて運転手がやってきた。前日の夜にガイドさんからインド系の人と聞いていたが、確かにアーリア系の顔立ちをしているようだった。

車はトヨタのランドクルーザーで、もちろんエアコンも付いている。街中を走っている今にも壊れそうな車とは雲泥の差で、これならチャーター料が高いのも理解できる。

午前9時に出発。私はマダガスカル語もフランス語も話せない上に、運転手は英語を話せないので車内ではまったく会話することができない。この状況で車に長時間乗るのは息苦しいと思うかもしれないが、実はそうでもない。道路状況がひどすぎるため、移動中は蛇行と振動が激しく、落ち着く暇がまったくないのである。運転手のほうも、おそらく車内で雑談するような余裕はないと思われる。

下の写真は移動中に車内から撮ったもの。振動が少ないときに撮ったので、写真に写っている道路はまだましなほう。

モロンベから1時間ほどで車は道路を外れ、未舗装の(といっても、それまでも未舗装同然だったのだが)細い道へ入っていった。30キロの移動に1時間かかるのだから、どれだけ道路がガタガタか想像できると思う。

ここからは周囲は次第に森林地帯になり、目当てのバオバブ森林に入ったことがわかった。森林といってもそれほど木々が密集しているわけではなく、場所によっては平原のようになっているところもある。

森林の中をぬうように続いている道を移動しながら、あちこちに立っているバオバブの木を眺めてきた。以下、ここで見てきたバオバブの写真を並べることにする。


最初に見たのが下の写真のバオバブ。潅木の茂みの中にあり、内部が空洞になっていて中に入ることができる。幹に開いている穴が、なんだか入口と窓のようになっているところが面白い。

バオバブの内部。これはもう、完全に人が住めるくらいの空洞が広がっている。このような状態になっても、ちゃんと木が生きているというのがすごく不思議な気がする。

道路わきに立っていたバオバブ。左のバオバブには、まるで覗き穴のような円形の穴が開いていて中を覗いたところこれまた内部は広そうだった。

右のバオバブは、まるで梵鐘に枝が生えたような形をしているところが面白い。

次々と現れるバオバブ。左上のバオバブは幹の中央がまるで鎧窓のようになっている。上を見上げると、「木を引き抜いて逆さに植えたような姿」と言われるだけあって枝というより根っこという感じだった。

地面には、ところどころにアリ塚があった。こういうものを実際に見たのは初めてで、私が興味深そうに見ていると運転手が棒を持って少し壊しだした。内部の構造を見せてくれようとしたのだろうが、しかしアリにとっては迷惑な話。そこで、少しでいいと言ったのだが、しかしながら壊しても壊してもアリが現れない。今はアリがいない季節なのかどうかはわからないが、このアリ塚は廃虚になっているらしい。これには運転手も苦笑いだった。

幹の途中から2本に分かれ、らせん状にからみついたバオバブ。モロンダバのバオバブ並木道から数キロのところには2本のバオバブが絡み合った「愛し合うバオバブ」があるが、これは時間の都合上、見ることができなかった。その代わり、ここで同じような形のバオバブを見ることができた。

上の写真とは反対に、融合している2本のバオバブ。すぐ近くに生えていたバオバブが成長するにしたがってくっついてしまったらしい。

このあたりで巨木ツアーの人たちに追いついた。見ると、バオバブの幹の周囲の長さを一本一本メジャーで測りながら移動しているので、これなら時間がかかるのも当然だろう。私の方はバオバブの奇妙な形状に感動しながら移動しているだけの気楽な旅行者なので、ここで巨木ツアーの人たちを完全に追い抜いてしまった。

ちょうど今がバオバブの実がなる季節らしく、上を見上げると枝に実がたくさんなっているのが見える。モロンダバでバオバブ並木道を見たときから、あの実を近くで見たいと考えていた。

そこで、今回は落ちている実がないかと思ってときどき地面を探していたところ、ようやくきれいな実を見つけることができた。

皮をむいてみると、中身は真っ白でマシュマロのような触感だった。運転手が「これは食べられる」と言って少し食べていたので、私も食べてみたがあまり味はしなかった。もっとも、インターネットで少し調べたところ熟した実はかなり酸っぱいらしいので、これはまだ食べるに早すぎる実だったのかもしれない。

しかしまあ、マダガスカル旅行中にバオバブの実を食べた人はかなり少ないと思うので、貴重な体験だったとも言える。

これまで森林の中でいくつものバオバブを見てきたが、その中でもひときわ異様な姿をしたバオバブがあった。下の写真の樽型バオバブで、これは大きなサイズで載せておく。人が写っていないので大きさが実感できないかもしれないが、幹の一番膨らんだ部分の高さが3メートルほどある。近くで見ると巨大さに驚かされる。

しかし異様な姿だと思う。こんな変わった形の木は見たことがない。バオバブの幹は貯水タンクの役割があるので、この地域の乾燥した気候がこのような変わった形を作ったのかもしれない。

そして、このバオバブ森林のハイライトといえるのがこの巨大バオバブ。「マダガスカルで一番大きい」といわれているバオバブで、幹の周囲の長さは30メートルほどあるという。一緒に写っている人間と比べても、その巨大さがわかると思う。

こちらも大きなサイズで載せておく。

写真で見たことはあったが、やはり実際に見てみると圧倒される。幹の周りを何周かしてみたが、いったい樹齢は何年くらいだろう。

なお、上の写真に写っているのはすぐ近くにある村の人たちで、観光客が来るのを見るとたちまちのうちに集まってくる。もちろん一緒に写真に写ったりしてチャージ料を取るためで、私も多少の金を払ってきた。この木だけはチャージ料を要求されるという噂は聞いていたのでそれほど驚かなかったが、かつてはこういうことはなかったそうなので、次第に観光客ずれしてきたということかもしれない。(この旅行当時は村の名前は知らなかったのだが、帰国後に調べたところ「アンドンビリー “Andombiry” 」という村ということだった)

下の写真がその村人たち。

車はここで引き返し、バオバブを再度見ながら戻ることになる。バオバブ森林地帯に4時間ほど滞在し、午後2時にモロンベに向かって出発した。4時間といっても、各種の面白い形をしたバオバブを見ているとあっという間だった。気候は暑いが、それを忘れさせるほど魅力的な場所だったと思う。いつかまた来たい。


ワインディングロードを激しく蛇行しながらモロンベに戻る途中、運転手が道路わきの露店で休憩し、集まっている人たちと立ち話をしていた。台の上には初めて見るような果物が並んでいる。

ここで運転手が果物を私の分も買ってくれたので、手にとって眺めることができた。振ってみるとカラカラと音がするので、中に大きな種が入っているらしい。食べてみると、味は水分の少ない梨のような感じだった。

下の写真は、1個をホテルに持ち帰り半分に割った状態で写したもの。これが何という名前の果物かわかる人がいたら教えてほしい。

午後3時にホテルに帰着した。暑い中、かなり歩き回ったのですっかり日焼けしてしまったが、しかし楽しかった。メジャーな観光地といえるモロンダバではきれいな形のバオバブが見られるが、このバオバブ森林地帯では実に奇妙な形をしたバオバブを多数見ることができる。まだ訪れる旅行者も少ないようだし、マダガスカルではお勧めスポットといえる。


夕方、涼しくなってから外出し、昨日に続いてマーケット周辺を散策してみた。やはり外国人が来るのは珍しいらしく、前日に会った人が憶えていて挨拶してくれたりした。ホテルには外国人旅行者(おそらくフランス人だと思う)が何組か滞在していたが、ここでは見かけない。外国滞在中に町中を歩かないのはもったいないと思うが、まあ人それぞれということか。

海岸沿いをホテルに戻る途中、きれいな夕焼けを見ることができた。

ホテルに戻ると、部屋の電気が点かなかった。フロントがある建物も明かりが点いておらず、すでに食事をしている外国人グループの席にはロウソクが立ててあるので、どうやら停電しているようである。そこで、こちらもロウソクに火を点けて休んでいたところ、30分ほどで復旧し部屋の明かりが点いた。部屋にロウソクとマッチが常備してあることから、この町では停電はよくあることらしい。

夕食のメニューは、そうめんのような細い麺が入ったスープ、皿に山盛りのご飯と昨日に続いて魚のグリルで、ご飯をスープに入れて茶漬けのようにして食べるとうまい。せっかくなので、この日はマダガスカルのビールを飲みながら夕食にした。ちなみにマダガスカルでは “THREE HORSES BEER” と “THE GOLD” という2つの銘柄がシェアのほとんどを占めているようで、英語がほとんど通じない国なのに商品名が英語というのが笑える。

食事中をほとんど終えたころ巨木ツアーの人たちが戻ってきたので、挨拶してから部屋に戻った。本当に、ここでこの人たちと偶然一緒になって幸運だったと思う。

部屋に戻り、また停電するかもしれないので火の点いたロウソクを洗面台に立てた状態でシャワーを浴びたところ、何とか電気は持ちこたえてくれた。しかしながら、その後ベッドに横になって本を読んでいると突然電気が消えて真っ暗になってしまった。しばらく待っても復旧しないようなので、そのまま寝ることにした。