国内旅行編(大分 / 大乗院、別府民族資料館)

この年(2001年)の3月中旬に愛知へ豊年祭を見に行った際に使用した青春18きっぷが2日分残っていたので、以前から興味のあった「鬼のミイラ」を見に行くことにした。

「鬼のミイラ」があるのは大分県宇佐市の「大乗院」という寺。大乗院の他、有名スポットの「宇佐神宮」を訪ねた後、別府で1泊。翌日は「別府民族資料館」を訪れることにした。この「別府民族資料館」がどういう場所かは、当サイトのこれまでの国内旅行の傾向から想像できると思う。


早朝に自宅を出て、佐世保から小倉行き普通列車で小倉へ向かう。小倉で日豊本線の行橋行き普通列車に乗り換え、さらに行橋で宇佐行きに乗り換えて午後2時ごろ宇佐に到着。周知の通り、宇佐はアルファベットでは “USA” となる。だから何というものでもないが。

宇佐駅前にあった観光案内所で地図をもらい、大乗院の場所を確認。バスで30分近くかかるようだが、うまい具合に途中に宇佐神宮があった。そこで、先に大乗院へ行き、帰りに宇佐神宮を訪ねることにした。

大乗院

宇佐駅から約30分。四日市行きバスの終点で下車し、そこから徒歩5分。道路沿いの小高い丘の上、石段を登ったところに十宝山大乗院がある。

石段の麓には、鬼のミイラの来歴が書かれている。

この寺に安置されている鬼のミイラは、ある名家に代々家宝として伝わったもので、ある時、やむを得ぬ理由で手放された。その後さまざまな人の手を経た後、大正14年大乗院の檀家が購入(当時の価格で5500円)したが、原因不明の病に倒れた。

鬼の祟りと考え、大乗院にミイラを安置してもらうこととなった。その後病が治ったといわれている。昭和4,5年頃のことであった。

現在鬼のミイラは仏様として大切に祀られています。くれぐれもお参りする気持ちで見学してください。きっと皆様をお守りくださいます。

ちなみに、当時の5,500円は現在の数千万円に相当する金額だという。

私が鬼のミイラのことを知ったのは、かつて存在した雑誌 ボーダーランド で読んだため(面白い雑誌だったんですが、このジャンルで突出した存在である「ムー」に勝てず1997年9月号で休刊)。今回ようやく実物を見ることができるわけで、期待しながら石段を登る。

階段を上がりきると大乗院があった。大乗院の建物自体は、寺というよりも普通の民家という感じ。

靴を脱いで中に入ると、8畳くらいの部屋に仏壇が設置してあり、右側の隅に鬼のミイラがあった。まず中央の本尊に参ってから(そうするようにと書いてあったので)、鬼のミイラの前に座った。

ミイラは座った形で安置されているが、立ち上がったら2メートル以上はあると思われる。怖いという気はしないが、見ているとなんだか不思議な気分になってくる。他に誰もいなかったので10分以上座っていたが、時間が経つのを忘れるほどだった。

鬼のミイラは写真撮影禁止なので、代わりに駅前でもらったパンフレットの写真をアップしておく。

言うまでもないことだが、この鬼のミイラの正体は不明。半世紀以上前に九州大学が調査を行い、骨格は人間の女性のものと鑑定したそうだが、どの程度の調査が行われたのかはわからない。大抵の人は「作り物ではないのか?」と思うだろうが、たとえそうだとしても、前に座れば言葉を無くしてしまうだけの十分な迫力を持っている。興味がある人は、ぜひ一度実物を見てほしい。

結局、大乗院で30分ほどすごし、再びバス停に戻った。この付近は細い路地が入り組んだ一帯に寺がいくつも集まっており、歩いているとなかなか面白い。散歩には最適といえる。

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笠倉出版社から出版されている以下の書籍で、当サイトが提供した大乗院の写真が使われています。

『本当にいる日本の「未知生物」案内』

内容もなかなか面白いし、値段も安いので興味がある方はどうぞ。

宇佐神宮

再び路線バスに乗り、約15分で宇佐神宮に到着した。さすがに全国の八幡宮の総本宮だけあって、歩いていると現在地がわからなくなるくらい、とにかく広い。さらに、多くの建物が朱色に塗られているので景色が実に鮮やか。夕方ということもあって人は少なく、ゆっくりと散策することができた。

宇佐神宮の設立は571年だそうである。敷地内には広い池や森があったりして(地面が砂利なので少し歩きにくいことを除けば)変化に富んでいて飽きない。結局、1時間ほど歩き回ってしまった。

この宇佐には、知っている人も多いと思うが「邪馬台国・宇佐説」がある。それによると、宇佐神宮に祀られている比売(ひめ)大神が実は卑弥呼であり、魏志倭人伝の「水行10日、陸行1月」も辻褄が合うらしい。ただし、この宇佐説については私はそれ以上の知識は持っていない。邪馬台国についてはいろいろな人がいろいろな説を出しているが、この宇佐説はなかなか面白いのではないかと思う。


宇佐神宮を後にして、再びバスで宇佐駅へ。ここで大分行きの列車に乗り、夕方6時ごろ別府に到着した。別府に着いてはじめて知ったのだが、この日と翌日の2日間は「別府温泉まつり」(という名称だったと思う)が行われることになっていた。そこで夜になって出歩いてみると、カラオケ大会や各種ゲーム大会が行われていたが、主催者が気の毒に思えるくらい閑散としていた。日本有数の温泉街の別府にしても、かなり不況らしい。

この日は別府駅近くの安いビジネスホテルに宿泊。ただし、入浴だけは別府駅前の「別府高等温泉」を利用した。

別府民族資料館

別府駅前から鉄輪(かんなわ)温泉行きのバスで終点へ。別府といえば地獄めぐりが有名だが、地獄の多くは鉄輪温泉付近に集まっている。そのうちのひとつ、鬼山ワニ地獄の前に、目指す「別府民族資料館」がある。

ここがどういう場所かは、下の写真を見ればわかると思う。これを読んでいる人も大体予想がついていると思うが、すなわち、別名「別府秘宝館」である。

というわけで、今回の旅行のメインとなる別府秘宝館に入る。(いつもこういう場所ばかり紹介してすいません)

入場料は1,000円。なお、秘宝館横の珈琲館に100円割引券があるので、こちらで少し休憩してから秘宝館に入るのもいいかもしれない。

わりと入りやすい雰囲気のためか、来館者は意外と多い。また、一般に秘宝館は写真撮影禁止なのだが(淡路島ナゾのパラダイスは例外)、この別府秘宝館は珍しく写真撮影可となっている。以下、主な内容を紹介する。


まずはロウ人形コーナー。左の写真は「シタユキ姫と七人のこびと」というタイトルで、近くにあるボタン(乳首の形をしている)を押すと、こびとたちが緩慢に動き出すという仕組みになっている。同時にスピーカーからナレーションが流れだすのだが、これが淡路島ナゾのパラダイスでも見た「狸の凹の七不思議」。いまいちミスマッチ。

このコーナーには、他に「マリリン・モンロー」(ボタンを押すと下から風が吹いてスカートが舞い上がる)や、「エマニエル夫人」(同様に、ボタンを押すと犬が下着を引っ張る)、「ラクエル・ウェルチ」というよく知らない女優の人形などがある。

世界各地の性に関する展示品のコーナー。下の写真は「お多福歓喜天」の掛け軸。この他に、日本の展示品としては「春日局が愛用していた張型」など、世界の展示品としては「インカ帝国の秘宝」「ヒンドゥの秘宝」各種などがある。

日本各地に伝わる道祖神のコーナー。さまざまな形態があるが、一番面白いのが下の写真で「見ざる言わざる聞かざる」のようなもの。解説には「淫魔転身(神奈川県)」とあるが、どういう意味なんだろう。(なお、上に乗っているのはコイン)

哺乳動物の繁殖生体コレクション。水族館などでも同様の展示物があることがあるが、圧巻なのはやはりクジラの生殖器。

2階に上がると、ちょっと悪趣味な顔出し看板がある。私はとてもここで自分の写真を撮る気にはならないが、後から来たカップルは楽しそうに写真を撮りあっていた。

歌麿宝探しコーナー。浮世絵のところどころに穴が開いていて、そこから手を入れて宝探しをするという趣向になっている。手を入れてみると、アダルトグッズがいくつかひもでぶら下がっていた。

「そっと手を入れて宝をさがして下さいい」と書かれていて、「い」がひとつ多いのが謎。

喜多川歌麿の春画コレクションコーナー。春画の数センチ上にガラスが置かれていて、肝心の部分はすりガラスになっているという仕組み。斜めから見れば、その部分を見ることができる。といっても、そんなにしげしげと見る気にはならないが。

この春画コレクションはこの秘宝館の目玉らしく、かなり多くの種類が展示されている。


館内には「ミッドナイトシアター」という映写室があり、「愛の48手」というオリジナル映画が上映されている。内容はまあタイトルの通りなのだが、腕組みをして一人で見ていた私の姿は他の人には異様に映ったかもしれない。

館内には他に土産物店もあり、大人の玩具各種を販売している。係りのおばさんは「こういう機会じゃないと、恥ずかしくてなかなか買えないでしょ」などと言っていたが、そういうものなのでしょうか?(私は買ったことはないもので)

さらに、ここでは「セックスコンピュータ占い」というものをやっていた。「生命の曲線・リズム理論に基づき、システム100によって予測します」だそうで(この脱力感がたまらない)、1回300円。せっかくなので占ってもらったが、運勢は「精神的苦労多し、知恵有り野望有り、苦労すれど家庭生活に恵まれ平和な暮らし」という、良いのか悪いのかよくわからない結果であった。1ヶ月間のセックスの健康的な回数というのも算出されていたが、健康的というよりも体を壊しそうな回数だった。

大人の玩具を買ってもしょうがないので(「愛の48手」のビデオがあれば買ったかもしれないが)、結局土産は買わずに秘宝館を出た。この秘宝館は、観光客が多く歩いているという立地条件と入りやすい雰囲気のため、来館者が多く健全な雰囲気となっている。その分、他の秘宝館に共通する「なんとなく入るのが後ろめたい」という雰囲気には乏しい。秘宝館入門編としてはいいのではないでしょうか。

海地獄

帰りのバスまでまだ少し時間があったので、普通の観光もすることにした。行き先は、地獄めぐりのひとつ「海地獄」。

実は私は小学校低学年のころに別府へ来たことがあり、そのときに地獄めぐりもしている。しかしながら、血の池地獄がわずかに記憶に残っているくらいで他の地獄はまったく覚えていない。今回が二十数年ぶりの再訪となった。

海地獄とは、上の写真のようにきれいな青色をした池のこと。ただし、湯気が立ち込めているため風が吹かないと水面をよく見ることができない。この青色は硫酸鉄が溶け込んでいるためだそうで、水温は100℃近くある。

水の色は予想以上に鮮やかで、なかなかきれい。秘宝スポット巡りをするようになってから普通の観光地ではあまり感動しなくなっていたのだが、ここはよかった。時間があればさらに他の地獄も見てみたかったが、また別の機会に訪れることにしたい。

海地獄に近くには、オニバスを栽培している温室もある。

エッチビル

別府駅の近くに面白い建物があった。名前が「エッチビル」で、このビルの1階にあるのが「エッチ美容室」と「エッチブライダルサロン」。秘宝館を見た後だけに、意味深長なネーミングのように感じる。「普段どこの美容室へ行ってるの?」と聞かれて、「エッチ美容室」とは言いにくいのではないかと思われる。まして「エッチブライダルサロン」は尚更。

それにしても、どうして「エッチ」というんでしょうね。何の略だ? と思って調べてみたところ、どうやら「変態 Hentai」の略という説が有力らしい(他にも「助平な」という意味の俗語 “letch” が語源という説もあった)。ということは「ノーマルなエッチ」という言い方は矛盾しているわけか。


別府駅付近では「別府温泉まつり」が行われていたが、昨日とは一転してなかなかの人出だった。主催者もほっとしていることだろう。

帰りは別府から普通列車で大分へ移動し、久大線経由で佐世保へ帰った。本当は往きも久大線経由にしたかったのだが、別府到着がかなり遅くなるので諦めざるを得なかった。列車で九州内を移動する際にいつも感じるのだが、JR九州は特急列車での移動を基本と考えているらしく、特急列車と比べて各駅停車がかなり少ない(福岡市や北九州市の都市圏を除く)。このため、青春18きっぷを使う旅行の場合、旅程を考えるときにいつも苦労することになる。普通列車や快速列車の充実を望みたい。

(2001.3.31~4.1)


7年後の2008年1月に別府民族資料館を再訪した。再訪記はこちら。